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小説

魔王

魔王 (講談社文庫)

魔王 (講談社文庫)

伊坂幸太郎
講談社
2008-09-12

伊坂氏の最新作ということで飛びついたのですが、今までの作風と少し様子が違っていました。ストーリー展開に波があって、魅力的なキャラクターが動き回り、ミステリ的な伏線やガジェットで驚かしてくれて、最後にはキッチリとオチがついてスッキリ読める、というテイストを期待していると宜しくない反応があるかもしれません。
タイトルは仰々しいものの、派手さはないです。でも実に良く出来たタイトルだと思います。個人的には好きですね、こういうしっとりした系の小説も嫌いじゃないですし。娯楽性と文学性で無理矢理二分するなら、文学寄りになったかなという感じ。淡々と事が進む雰囲気はなかなかおつなものがありました。
今回は政治的な事が話にかかわってくるのですが、この作品が今年の9月よりも前に書かれた、という点が興味深いですね。とは言え、この作品自体が政治的な観点から啓蒙的であるか、と言う議論をしようって気はないです。それよりもむしろ、現実と妙にリンクしている点が静かながらも空恐ろしい雰囲気がして、そこがいい。派手さはないものの、静かに何かが忍び寄ってくるかのような不安感というものが描かれていて、そこがいい。スイカの話は実にいい例えだと思います。この話を10年後、20年後に読んでみると、確実に印象が変わってくるのでしょう。日本はこの先どうなっているのでしょうか。
一人登場人物を選べと言われれば、やはり政治家の犬飼でしょうか。今の日本にこんな危険な人物がいたら*1、事の行く末はともかく興味をもって見らずにはおれまい。誰も目を逸らすことなんてできやしまい。カリスマというものはどこか突出しているから、それが尖って見えてしまうのかもしれない。そう感じながら、また伊坂氏の別の作品でこの男が登場してくれないかと期待するのでした。

  • 注1 : まぁ今の日本には又吉イエスという違う意味で危険な人物も居ますが、危険というかアレな感じなのでここでいう危険な人物には該当しません。させません。

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