『オーデュボンの祈り』で伊坂氏の存在を知り大変気に入ったので、さて次はどの作品に手を出そうかと考えていたところ、殺し屋たちが主人公と言うことで本書に狙いを定めました。グラスホッパーマニファクチュアとも『Killer7』とも無関係なのは理性では分かっていたのですが、どうせ全作品に手を出すような予感めいたものがありましたので、順番なんてそういう思いつきで構わないでしょ。それに下手に検索とかで前調べすると、ネタばれとかで自分が損するだけですし。
伊坂氏の作品はどれも300ページ前後くらいで、普通の作家さんの感覚ならかなり短く物足りなく感じられる恐れがあるんですが、展開が早かったり無駄に描写を長くしていなかったりするせいか、もっと長めの小説を読み終えたかのような満足感があります。そして本作もその例にたがわず、読了して「やはり伊坂印の小説だ」と感じました。
軽妙な会話、絡み合う複数のプロット、きちんと回収される伏線、そして魅力的なキャラクターの数々。ミステリ的な凝った趣向とか奇異な設定などは無かったのでさすがにオーデュボンほど驚きはしなかったのですが、自分の読書的な好みにかなり合っていたので楽しめました。
あまたの物語の中で数多くの殺し屋という職業のキャラクターが存在していると思いますが、今まで出会ってきた中においても本作の連中はかなり好きです。特に気に入ったのが鯨という名の殺し屋(というか自殺させ屋?)。彼が織りなす死人との会話の数々が印象に残りました。あと魅力的だったのは「押し屋」と称される人物の佇まいですかね。
意外だったのですが、世間ではそこまで評価が高くないようです。しかしそれはあくまで伊坂氏の一連の作品の中で比べて、といった感じだと思いました。伊坂氏の作品ならもっと凄くないといけない、という期待感からそういう印象になっているのかもしれません。この作品自体はストレートな面白さに満ちていて、世の小説の中においてもかなり面白い部類だと感じています。
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