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硝子の塔の殺人

硝子の塔の殺人

ネタバレなし感想

最高に面白かった!

硝子の塔の殺人

なんというか「ぼくのかんがえたさいきょうのしんほんかくミステリ」といった趣向で、新本格派ミステリを読み続けてきた読者へのご褒美みたいな作品でした。

建築法的に大丈夫なのか?と思うくらいに奇っ怪で魅力的な建物、今までに見たこともないような見取り図、と本文読み始める前からワクワク感が止まりません。

「君たち、こういうのが読みたかったんでしょ?」と言わんばかりの作者の意気込みに「YES!YES!YES!」と連呼するばかりです。

溢れ出てくるミステリ愛、そして待ち受ける意外な展開。

ミステリー界の必修科目と言っていいでしょう。

事前に読んでおくべきミステリ作品は特に無いです

たとえば映画『エンドゲーム』には、事前にMCU作品全部見てないと楽しみづらいという制約がありますよね。

しかしながら硝子の塔の殺人には、そういう制約はありません。なんなら初めて読むミステリーが当作品であっても大丈夫でしょう。

とはいえ沢山のミステリ作品を事前に読んでいればいるほど、ニヤリとできる描写に沢山出会えるでしょう。

さらに老婆心ながらに申し上げるとするならば、事前に『館シリーズ』をどれか一作でも読んでいると、より楽しめるでしょう。敢えて一作選ぶなら、作中の名探偵が一番好きと言っていた『時計間の殺人』はいかがでしょうか。

とりあえず未読の方は、以下の文章を読んでる暇があったら、すぐに当作品を読み始めた方が懸命です。できれば館シリーズどれか一作を読了したあとで。

魅力的な名探偵

新本格派ミステリといえば、変わった名探偵も楽しみの一つですよね。

当作品の女性名探偵”碧月夜”のキャラクター描写は「もしかしてワイのために書いてくれたのか?!」と思ってしまうくらい、自分の性癖にドンピシャでした。

  • 二十代半ば
  • 175センチ
  • 胸ポケットへハンカチ
  • 薄いブラウンでチェック模様の英国風スリーピーススーツ
  • ヒールのない革靴
  • メッシュが少し入ったショートカット
  • 化粧っ気のない顔
  • 二重の目が少したれていて、冷たい感じはしない

こんなキャラクター造形なのに、ミステリー作品を語りだすと途端に暴走しちゃうのがたまりません!

「ただ、『十角館の殺人』で新本格ムーブメントが爆発する土壌を作ったのは、島田荘司なのは間違いないでしょう。一九八一年に刊行されたデビュー作『占星術殺人事件』は多くの本格ミステリファンを魅了しました。綾辻行人もその一人だったはずです。また島田荘司は自らも『斜め屋敷の犯罪』や『暗闇坂の人食いの木』などの名作を生み出す一方、綾辻行人、法月綸太郎、歌野晶午など新本格ムーブメントを担う若手作家を世に送り出しています。島田荘司がいなければ『十角館の殺人』も生まれることなく、新本格ムーブメントも起こらなかったのではないでしょうか。また新本格ムーブメントを仕掛けた宇山日出臣。戸川安宣などの編集者の功績も忘れてはなりません。もちろん、本格ミステリ不遇の時代を支えてきた、鮎川哲也など……」

なお演説がこれ一回だけで済むわけもなく、これでも言及が短いほうだったりします。こういう風に挙げられた作品を事前に知ってると、うんうんと頷いてしまうというものですし、作中に自分が居たなら話に混ざらせてくれと言いたくなります。

なおこういった演説、本編には全く関係がない描写です(マジで)。だから主人公以外からは「さっさと結論を言え!」と怒られたりするんですが、その返事が……

「結論? 私が一番好きな『館シリーズ』の作品ですか? それなら『時計館の殺人』が……」

だったりするから、もうたまんないです。こんな話してる時は……

男装の麗人といった雰囲気なのに、大きな目をキラキラと輝かせ、頬を紅潮させている

ってな感じで、普段とのギャップもあって、なんというかごちそうさまでしたとしか言いようがないです。圧倒的感謝!

なおPixivでファンアートを発見しました。

圧倒的感謝!

作中で紹介されたミステリー作品

作中で他作品を紹介してるミステリー作品も色々あると思いますが、ここまで多数の作品を紹介してるのは稀有ではないでしょうか。

『硝子の塔の殺人』は本格ミステリのデパートやでぇ!

見ても本編ネタバレにはならないのですが、あまりにも作品数が多いので、クリックしたら見れるようにしてます。

クリックで作中で紹介されたミステリー作品を表示
↑『まだらの紐』が収録

↑『忌まわしき花嫁』が収録

↑17章に密室の講義

↑『踊る人形』が収録

↑『初期クイーン論』が収録

クリックしたら分かっていただけると思いますが、とんでもない数ですよね。

あふれるミステリ愛!

ネタバレあり感想

ここからはネタバレ全開で感想を書かせていただきますので、クリックしないと見れないようにしてます。ご了承ください。

クリックでネタバレ感想を表示

帯に綾辻行人先生が「ああびっくりした」と書かれてましたが、そりゃ綾辻先生も驚きますわ。ミステリ愛も凄いけど、どんだけ綾辻先生ラブなんですか。

館シリーズ読んでたほうが良い、っていってた理由は読了後の方は存分に分かっていただけたと思います。「中村青司を殺せ」という言葉を見たときの衝撃度は、近年稀に見るものがありましたよね。作中では館シリーズ未読であっても大丈夫なように配慮がされてますが、やはりあの一言を見たときの動揺は沢山の人に味わってほしいと思います。なんというか色々な意味ですごすぎました。

『硝子”館”の殺人』という描写が、あまりにも自然にすっと差し込まれてるので、全く違和感も感じることなく読み進めてしまっていました。思わず再読したら、38Pで館シリーズが11冊とあったり、伏線がしっかりと序盤から大胆に張られてますね。

最初から犯人役が分かっているという倒叙ものの構成でありつつ、かなりページ数を残したまま主人公が犯人として弾劾されてしまうあたり、いったいこれから何が起ころうとしているんだ……?という戦々恐々とした感情をいだきながら読み進めました。

そして訪れる前代未聞の「読者への挑戦状が2つ」という構成。禁じ手の隠し階段とか、メタミステリかと一瞬思わせるところとかもありつつ、それらが全て重要な二段構えのための構成要素なので、読了したあとはもう納得しかないですね。二番目の物理トリックがかなり凄かったので、三番目のトリックがやや霞んで見えなくもなかったのですが、それすら真犯人こと”名”犯人の動機となる構成、お美事にございまする。

自分はもう先が知りたくて仕方ないから、考えることすら放棄して読んでひたすら驚いてましたけど、読者への挑戦場に勝利したマニアは果たして何人居るんでしょうかね。私、気になります!

まとめ

あまりの面白さに一気読みしてしまいました。

登場人物の掛け合いも楽しくて、読み終えたいけど読み終えるのが寂しい、と相反する気持ちで読み進め、読了後はとてつもない喪失感。

仲のよい友人と別れてしまったかのような心境。大傑作。この読了後の感覚、ゲームでいえば『ブレスオブザワイルド』を思い起こさせます。

そう、『硝子の塔の殺人』は、新本格派ミステリのブレワイと言っても過言ではありませんっ!

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