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小説

永劫館超連続殺人事件

永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした 小説

一言でいうと2025年の元旦にこんな凄いもの読んじゃったら今年は他の作品鑑賞して満足できるんだろうかってレベルのオーパーツ的作品でした(全然一言じゃない)。

当作品の感想だけでなく読むに至った経緯なども書いてるので、純粋な感想だけ読みたい人はここから読んでみてください。

鑑賞に至る病

運命だと思う? 偶然だろ

今思えば、大晦日の晩ごはんを食べすぎたか否か、これが大きな運命の分かれ目だったと思います。

二年参り[A] … Continue readingを考慮するなら、あまり大量にご飯を食べるべきではなかったんですが、深く考えずに自分にしては食べすぎてしまってお腹をこわし、自室に籠りっぱなし(ある意味これはこれで年籠り?)になって妻の相手どころではなくなってしまいました。

まぁコロナやインフルに罹ったわけじゃないし腹下し用の薬でも飲んで大人しくしとくか、とネットサーフィン。すると青崎先生がいきなり配信を開始されてたので、もちろん拝聴するに決まってるじゃないですか。

そこでは青崎先生[B]たぶん世界一嘘喰いという単語をツイートしてる作家さん。地雷グリコの授賞式で嘘喰いTシャツを着て現れたことで有名。ソーヤさん[C]以前からミステリー作家さん達の周りで観測していて、おそらく作家さんなのだと思うのですが未だに何者なのか分からない。Googleで”ソーヤ … Continue readingがおすすめの小説を紹介されている配信でして、和やかで楽しそうな口調ではあるんですが、中にこもってる熱量がなんか凄かったんですよ。

ネタバレしないように配慮しつつも、未読の人が思わず手にしたくなるような、絶妙な紹介の数々。

轟々と燃える炎のような勢いではなく、じわりじわりとこちらの体感温度を長時間にわたって上げてくるような、炭火の如き称えるもの。

自分は53歳と初老の域に達していて、片足が棺桶に入ってるような状況であり、普段から欲望が薄れていくのを恐れているんです。ただ生きている、みたいな状況が怖い。

ですがこの配信を聞いていると、あれも読みたい、これも読みたい、という欲求が強まっていくのを実感します。

この枯れた脳に情熱が注がれ、私を人間として居続けさせてくれる。

しかしながら人間なので、トイレに行きたくなってしまったのです。なぜ自分はあんなに食べすぎてしまったのだ……と少し後悔しつつ、しばしの間離席しました……それが苦悩と困惑の始まりになるとは知らず。

古代戦士ハニワット または私は如何にして考えるのを止めて宇宙猫になったか

トイレから戻ってきても、配信は相変わらず続いていたのですが、明らかに様子がおかしい。

今までのタイムループものは、厳密に言うとタイムリープでなくても実現できてたものがあると思いますが、この話はタイムループじゃないと成立しないんですよ。

今までのタイムループは、この可能性を見逃していた。

”物理の北山”を履修済だったのに、図説を見せられても理解できなかった。

俺は何を読まされたんだ。

コードギアスが好きな人にもオススメ!

オレたち…何を聞かせられてるんだ…!?

宇宙猫

てっきり今まで小説の紹介をしてたと思ってたのに、俺がトイレに行ってる間にオーパーツの紹介に変わってます?

これが小説なのかもはや分かりませんが、読んでみたい……この得体が知れない代物を味わいたい……でも……でも……トイレに行ってたから肝心のタイトルが分からない……っ! 説明されるたびに「……で、そのタイトルは?」と何度も質問したくなります。説明のたびにタイトルを知りたいという欲望が高まるばかりでしたが、本の紹介の最後までタイトルは述べられませんでした。トイレに行ってしまったばかりに、俺はこの気持ちのまま年を越してしまうのか……?! 

そう焦るあまり、青崎先生に特攻して質問したら、秒で回答いただき助かりました。

そう、これは『永劫館超連続殺人事件』の紹介だったのです。

話題になっていた図説については、作者さんからこのような心の準備をさせていただきました。

普段、嘘喰い[D]宇宙一面白い漫画。全巻読み直してカリ梅の数を数えたり、独自の四字熟語を作ったりした感想はこちらやジャンケットバンクを雰囲気で読んでいて、しょっちゅう脳裏にこの画像が浮かんでいるような自分は、読み始める前から笑う準備をしておくしかないのではないでしょうか。

ルールが全然ピンと来ねえだろ

もう何も恐くない(覚悟完了)。

永劫館、紙から読むか? 電子から読むか?

星海社の紙書籍って、なんか妙に紙の手触りが良い気がしません? 気のせいか紙の匂いも上品じゃないです? 紙をめくる、その行為だけで満足度が高すぎません?

普通の人がこの文章見たら「キモッ!」って思われるかもしれませんが、この文章をわざわざ読みに来てる皆さんなら、同意してくれるんじゃないかと思います。

基本的に書籍類は紙が好きなんですが、でもね、40年以上オタク生活続けてると、物理的な本棚の限界が分かってしまうんですよ。本棚に入り切らなくて、なくなくお気に入りの本も売却したりして、秘伝のタレみたいにより濃いお気に入りの本だけが残っていくさまに名前をつけてみたくなりません?

そんな感じに紙と電子、どっちで買うかかなり悩んでたんですが、最終的に自分の心に従って、電子版[E]なんと電子版なのに本の帯まで収録されていて、いたれりつくせり。星海社、やってくれた喃!を買うことにしました。

紙の小説も大好きではあるんですが、初老の身ですと本を持ってるだけでも体力を使い、座りながら読むと首の角度を保つのが難しいのです。

いろいろ試行錯誤した結果、寝ながら布団からまったく腕すら出さずに、小説を読む方法が見つかりました。

自分が読みやすいフォントサイズにして、手元でポチポチとクリックするだけでページ送りができます。人としてどうなんだろう、と思ってはいけません。天国はここにあり。おれは人間をやめるぞ!ジョジョーーッ!!

こうして遂に永劫館を読む準備が元旦朝イチに出来あがってたものの、妻が「福袋セールにいくから、お昼ごはんは好きに食べな」と言い残して去っていったので、息子のために昼ご飯を調達してくる必要があります。元旦でほとんどのお店が閉まっているというのに……

小説を読む時はね 誰にも邪魔されず 自由で なんというか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで……

この読書経験はこれまでにない試練となるであろうから、読書の儀は慎重に…きわめて慎重に行わねばならぬ。

そう決意し、敢えて今すぐに読み始めはせず、元旦でも開いてくれてるCoCo壱番に感謝しつつ、息子とお昼ごはんを食べてから、本作を一気に読み始めるのでした。

この門をくぐる者は一切のネタバレを捨てよ

前置きが異様に長かったですが、ここからやっと小説の感想が始まります。

ネタバレ全開で感想を書いてますので、未読の方は目にしない方が無難です。

クリックでネタバレ感想を表示

うまい!うまい!

「館」✕「密室」✕「タイムループ」という組み合わせだけで大好物なのに、キャラの描写も魅力的で(コーディの婚約者に対する反応とか)、息つく間もなく次々と予想外の展開が起こるので、一気に読み終わってしまいました。ただでさえ上質な素材が、極上の料理と化して眼の前にお出しされたら、そりゃペロッといくでしょ。

名探偵ももちろん出てくるんですが、主人公の邪魔をここまでしてくる役回りの名探偵って自分は見たことないです。嫌なヤツなのに利用しないといけないジレンマがあったり、と構成の妙味が見事。ジャイロ・ダイス、実に良いキャラだったので他作品でも登場してくれないですかね。ジャイロは一回死んでるけど死んでないし、まぁ大丈夫でしょう。メルカトル鮎みたいな例もあることですし。

キャンディーショップの描写も渋く、最低限の描写で話のテンポがよいのに、言葉の一つ一つが重厚で素晴らしい。具体的なことは述べてないのに十分に察することができてしまう。

主人公が呪いの解除方法を読むシーンは、具体的にその内容が描写されていないにもかかわらず、かなりの衝撃がありました。ただ事ではない予兆から「いったい何が起こっているんだ……?!」という動揺が心を揺さぶるさまは、国民クイズ[F]30年近く前の作品でありながら未だに忘れられない存在。似たようなものを見たことがない唯一無二の物語。とてつもない熱狂が、ここにある。で「第3問に行こうか!」と言われた時くらいの凄まじさでした。

国民クイズ

タイムループも道連れという特殊設定があり、この設定を存分に活かした構成・真相となっていて、めっちゃくちゃ面白かったです!

これがあの噂のドローね

作者の方から言及しれてた図説、どんな代物が出てくるんだろう……と思ってドキドキしながら読んでたら、割と序盤で図説が出てきて身構えてしまいました。

しかしながら、これなら自分でも理解できそうな気がする。ひょっとして他にも図説があるのでは?

その予想通り他にも複数回の図説が出てきたんですが、歴戦の読書家の方たちが理解できなかったという風には思えません。

頭の中に疑問符を抱えたまま読み進めていき、忘れた頃にそれはやってきました。

よほど複雑な図説なのかと想像していたら、二人の観測者の図説は予想外そのものでした。

何だ今の?

仕事柄、自分は図説を書くことが多いです。長々と文章で説明するよりも、図で書いたほうがすんなり頭に入ってくれるものだ、というのを日常的に実感してる状況とも言えます。つまり普通の人よりも図説を作る機会があり、目にする機会が多いと自負しているつもりなんですけど、作者の方が言われてたように爆笑することはできず、ただただ自分の顔から表情が消えているのを実感するばかりでした。

シンプルで見やすい図になってるはずなのに、理解できない。どこから見始めればいいのか、分からない。

ループする、ループする、永劫に、自分の思考が、ループする、ルー……

戸惑いながらも、漠然とではなく物語の順を追って読み解いてみては、と思いついてからは実に優れた図説なのだと分かりました。意味がわかった後だと、たしかにこの図はこう書くしかない、と理解できます。

ああ、なるほど、タイムリープが今まで見逃していた可能性ってこういう事か……

完全に理解した

読了後に青崎先生による感想をみると、納得感がすごいですね。

オズボーンの10個目のチェックリスト

世には様々な物語が語り尽くされ、驚きを得られる事は徐々に減っていっていると感じます。

人間はまったく新しい概念だと理解できないから、既存の概念を組み合わせていくしかなく、特にミステリーといった分野ではその組み合わせの候補という鉱山も枯渇しつつあるのかもしれません。我々は限りあるレッドオーシャンという名の湖の中を泳ぎ続けている。

Inscryption[G]何を書いてもネタバレになりそうな規格外なゲーム。仕事で忙しかったにもかかわらず、ネタバレ感想を書いてしまうくらい、異質の体験でした。というゲームについて、りくぜんさんがこう語られています。

遊んでて「えっ、何これ…」となるゲーム。安心という感覚が、自分の脳に保存されている過去の経験を参照することによって生まれるならば、驚きという感覚はその逆。自分が知っている情報と照らし合わせても合致するものがない状態は、SFを読んでいる時のように心がフワフワとし、あぁこういうのを体験するためにゲームをやっていたんだったなと再認識させてくれる。知らないことを知るために人生があり、体験したことがないことを体験するためにゲームがある。
https://siusiu.hatenablog.jp/entry/2022/12/31/215648

永劫館を読んでいて思ったのは、特殊設定ミステリは驚きが埋まっている未知の鉱山であり、ブルーオーシャンという無限の可能性が広がる世界なのではなかろうか、と。

屋根裏の散歩者

自分は19年くらいとある二次創作について考え続けてるんですが、よく思うのが「面白さとは何なのか」という命題です。オタク生活40年くらいやってても分からない。この作品は面白かったと言及できても、何がどうだから面白いのか、というのが未だに説明できない。この問題に対し、作者の方があとがきでこのように書かれていました。

それまで見えていた世界が突然ひっくり返って、読む前と読んだ後で個人の価値観まで変わってしまう。そういう構造の物語というのは得てして偶然で生まれることは少なく、大抵は創作者の並々ならぬ努力があってこそ世に送り出されるものだと思っています。

故に「物語の面白さとは何か」という作家にとっての至上命題について考えたとき、私はその『世界の反転』がどれほどダイナミックで、どれほど巧みに構築されていて、そしてどれほどのカタルシスを生むことが出来るか、という点に注目してしまうわけです。そういう作品に対しては敬意と憧れに近い感情を抱きます。

地上を歩いてると思ったら実は天井を歩いていたといった感覚は、小説の醍醐味かと思います。天井を歩いていると意識して再読すると、また違った読み応えがあるあたりも至高の体験ではないでしょうか。

永劫館はカタルシス部分ももちろん素晴らしかったですし、それだけにとどまらず物語の細かい作りなども気配りが行き届いていたのが更に良かったです。トリックだけの物語になっておらず、そこに人が居るかのように息吹を感じさせてくれる。こんな凄惨な設定のはずなのに、最後は爽やかさすら感じさせてくれる。

自分が考えてる二次創作は、あまりにも長いので連載形式でやろうと思ってますが、一冊の本と違って最初が面白く感じられないと、誰も付いてきてくれないと思ってます。最後まで読んでもらえたらカタルシス部分は自信を持ってお出し出来る、なんてのはワガママでしかない。そこまで退屈せずに読者を連れて行くための工夫を、日々考えて続けています。面白さとは何なのか、と自問自答しながら。

19年も考えてる割にあまりにも救いがない話だなぁと思ってるんですが、永劫館を読んだ後では、甘えでしかないなぁと痛感しました。プロの作家さんみたいに厳しい締切に追われているわけでもないので、この心臓が動く限り、諦めずに模索し続けていこうと思います。まずは自分自身が面白いと思えるようなものでなければ、他の人が面白く思えるわけがないですから。

パンがなければケーキを食べればいいじゃない

南海さん、なんちゅうもんを読ませてくれたんや……なんちゅうもんを……こんな凄いもんは読んだことがない……

この先、他の作品を鑑賞して満足できない体になってしまったのでは……と思ってたんですが、だったら次の作品を待ってればいい気がしてきました。

2月発売予定とのことで、今から楽しみです。

福岡だと本の入荷が2日程度遅れるので、たぶん我慢できずに電子版を買っちゃうか賭けません?

賭けになんねーだろ、電子版しかねぇ雰囲気だ。

脚注

脚注
A 大晦日の夜から元旦にかけて神社や寺に参拝する習俗の事です、ええ。年じゃなくて年号変わるときも、何らかの呼び名が付いてる気がするんですが、見つけられませんでした。
B たぶん世界一嘘喰いという単語をツイートしてる作家さん。地雷グリコの授賞式で嘘喰いTシャツを着て現れたことで有名。
C 以前からミステリー作家さん達の周りで観測していて、おそらく作家さんなのだと思うのですが未だに何者なのか分からない。Googleで”ソーヤ 作家”で検索しても、ロバートJソウヤーしか出てこないので、インターネットの限界を感じてる。邦キチ再現度の高さが凄いことで自分の中で有名。
D 宇宙一面白い漫画。全巻読み直してカリ梅の数を数えたり、独自の四字熟語を作ったりした感想はこちら
E なんと電子版なのに本の帯まで収録されていて、いたれりつくせり。星海社、やってくれた喃!
F 30年近く前の作品でありながら未だに忘れられない存在。似たようなものを見たことがない唯一無二の物語。とてつもない熱狂が、ここにある。
G 何を書いてもネタバレになりそうな規格外なゲーム。仕事で忙しかったにもかかわらず、ネタバレ感想を書いてしまうくらい、異質の体験でした。

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