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小噺

桜島ザンギエフ伝説(2)

桜島ザンギエフ伝説 小噺

「よし、二人とも! さっそくゲーセンデビューだ! 桜島ザンギ伝説の始まりだ!」

意気込む俺。帰り支度を始める二人。

「俺、バイトだから」、と卑語くん。終わった後は冷めてしまう男です。

「写真はすぐ現像しとくよ」、とおそえがわ。なんでコイツはいつもマイペースですか?

仕方なくアロハシャツとグラサンとスリッパと洒落込み、ママチャリで行き付けの店へ出かけました。気のせいか、通り過ぎる誰もが振り向いている気がします。

気のせいです、きっと。


トップガンってゲーセンは鹿児島では結構有名な所です。常連さんとやれたら、熱い対戦が楽しめます。で、夏休みになると人だらけです。その人口密度は夏休みのプール並みで、クーラーがいくら一生懸命になっても追いついてくれません。ストリートファイター2ダッシュ(以降、スト2と総称)が登場した直後とあって、只でさえ熱いゲーセンは対戦熱でヒートアップ!

でも、今日はやたら涼しいです。なんで? 

気が付くと俺を中心に半径1メートルの空間が出来てます。俺が周りを見ると、そちらの人間が皆、目を伏せます。目を逸らします。遠くに行きます。

なぜ? 俺って実は寂しがり屋さんなんですよ? 

「なんだ、その態度は! 言いたい事があるならはっきり言え! ジロジロ見てるくせに、俺がそっち見た瞬間に逃げるな!」

とか思ってると、常連で犬が大好きなのU君がご来店。すっかり世間の重圧にいじけていた俺は、しっぽを振る小犬のごとく、彼に手を振りました。

何故無言で背を向けておかえりになられますか?

その後俺の番がやっと回ってきたので、ようやく対戦。もちろんキャラはザンギ。色は2Pカラーの青。俺の剃り跡の色。

ザンギってからには最初っから全開で飛ばすつもりです。30人抜きくらいはするつもりです。誰にも負ける気はしません。ダルシム以外には。

……どうして2人抜きしただけで誰も入ってこなくなりますか?

寂しくコンピューター戦を終えてみる。そして考えてみる。

そして真理に到達、悟りを得てみる。

ここの対戦台だと、相手にすぐ顔がばれてしまう。

ならば、そう簡単に顔が見られないような所に行くしか。

幸い、少しママチャリを飛ばせばあります、対戦台が横にズラリと並んだ店が。


運命とはかくも残酷で、かくも滑稽な物なのか。

みなさん、今日は夏休みなんですよ?

家に閉じこもってないで、外で遊ぼうよ!

たとえばゲーセンとか! あと、ゲーセンとか! そうそう、ゲーセンとか! おっと、忘れる所だった、ゲーセンっすよ、ゲーセン!  

とか言いたくなるくらいに人が居ません。人が居ないと俺の頭がやたら目立ちます。居ても目立つけどな。

仕方無く寂しく一人プレイ。そうして無駄に時間を浪費していると、突然画面がとまり、聞きなれたファンファーレが! 挑戦者あり!

直接顔を見たわけじゃないんですが、話し声で2人組みの兄ちゃん達の様子。キャラは、やっぱりリュウ。はっきり言ってカモです。ネギ装備の。

取り敢えず少し連勝。すると向こうから「なかなか強いな」と言った話し声が。雰囲気的にこっちの顔を伺おうとしているのが分かりました。だから俺もそちらを見ました。

目が合った瞬間、奴の肩がビクンッ!となりました。そして慌てて対戦台の向こうに隠れてしまい、興奮した口調で友人に話し掛けてます。俺にも聞こえる大声で。

「ザンギだよ! ザンギなんだよ!」

「見りゃ分かるじゃんか」、と俺の顔を見ていない御友人、おそらく画面上のザンギエフを指差している事でしょう。

「違うんだって、本物のザンギなんだってば!」

「だから、ザンギじゃんか」、と少しイライラした声で応じる友人。まだ事態の深刻さが分かってません。

そして敢え無く俺ザンギの前に轟沈。そして何なんだよ、と俺の方を伺おうとしている雰囲気。

ビクンッ!!

人って、同じ状況に面すると、意外なくらい同じ反応、同じ仕種をするもんだな、と冷静な俺。一方、対岸は大火事の模様。

なんかゴソゴソといった音と共に、二人は隣の対戦台に移動した模様。隣では対コンピューター戦が始まってます。

ここで見逃すほど俺も大人じゃないです。すかさず今座ってる台のプレイを捨てて、隣の対戦台に乱入。乱入のファンファーレが鳴った瞬間、向こうで息を呑んでいるのが分かりました。すかさず隠れて向こうから見えないようにします。  

さあ、キャラ選択です。リュウ、ケン、リュウ、と動かしてどっちにしようかなぁ、といった演出を一通りしてみました。すると向こうから安堵のため息が聞こえてくるようです。そうやって安心させてしまった後、当然カーソルは一直線にザンギへ。

「うわぁあああ!!」

もはや勝負以前の問題だった模様。二人はすぐに帰っていってしまいました。

あとに残されるのは、コンピューター戦を一人でプレイする俺。心なしか、もう寂しそうには見えません。

明日は合宿の買い出しに繁華街へ

※第三話「目を合わせちゃダメ!」へ続く

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