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小噺

桜島ザンギエフ伝説(1)

桜島ザンギエフ伝説 小噺

まだ俺が19歳だった、若かりし頃。

天然パーマでゲームを楽しんでた頃。

天然パーマ

10月には20歳になってしまいます。

最後の10代の夏。

何か甘酸っぱい思い出が欲しくなるお年頃。

で、考えました、俺。

で、実行に移す為に悪友の卑語くんに電話しました。

「バリカン持ってたよね?」


大学入学直後、ストリートファイター2というゲームの歴史に残る名作ゲームがゲームセンターに登場、暇をいい具合に持て余していた俺は早速大ハマリ。8人キャラが選べますが、迷わず俺は赤パンツのモヒカンレスラー、ザンギエフを選びました。なんか豪快で、何も考えなくても適当に勝てそうな感じで、頭の悪い俺にはうってつけだと思ったからです。だってこんな格好↓ですよ? あらゆる攻撃を寄せ付けない鉄壁、って感じがしませんか?

ザンギエフ

大間違いでした。

実際は我慢とテクニックと気合が必要なキャラでした。仕方が無いので、俺は特に気合を重視。

にしてもコイツは忍耐というものを俺にじかに教えてくれました。つまり、ちっとも初心者むけでありません。今じゃ珍しくも何とも無いですが当時は使ってるだけで目立ち、驚かれました。対戦で負けが込んできて出す時の最終本気キャラがコイツだったりすると、なおさら目立ちました。


バリカン確認のあと、半時間後。

いつもはなかなか時間通りにやってこない卑語くん、何があったのか、お早いお着きで。気のせいか鼻息が荒いです。

話し合った結果、バルコニーに椅子を出して黒いごみ袋の真ん中に穴を空けました。俺の頭くらいの穴を。いつも疲れた顔をしている卑語くん、今は何かに憑かれたようなはしゃぎっぷり。いそいそとコンセントを探しやがります。

俺が頭からゴミ袋を被ったまま炎天下で座りっぱなしになっていると、チャイムが。

「母さん?!」

うちの両親は予告無しにやってきたりするので、マジビビリはいってました。

でも違いました。やってきたのは「おそえがわ」という名の悪党です。おそえがわは相変わらずでした。見た目は普通です。平均的日本人です。日本人を合計して1億で割れば答えはコイツになります。もち、余りはゼロね。もっと分かりやすく言えば、スーツ着てデスクに座らせていれば、只のマスオさんにしか見えません。いつも通りです。

でも今日はちと違いました。その両手に持っている物は何ですか、いや団扇じゃなくてそのカメラは何? 

卑語くんの方を見ると、さり気なく目を逸らしやがりました。


「さあ、断髪式の始まりだぁ!!」

卑語くんが御自慢のハスキーセクシーボイスでかっこよく言いやがります。バリカンを手にしたまま。おそえがわはにやけた顔をまるで崩さず、カメラを顔の前にすっと平行移動させ、シャッターに人差し指を添えています。

いっぽうその頃、すっかり冷静になってた俺としては、そんな二人を見て、汗だくになりながら言い訳を考えてました。「やっぱ止めようよ」なんて言って通用する連中ではないですから。冷静に幾つか候補を考え、いいのを思いついたから口にしました。

「た、太陽が黄色かったんだ、太陽がいけな「まずは真ん中から」

卑語くんは遮るように言い放つと、問答無用にバリカンは下ろされました。辺りに響くジャリジャリという音。

「もう、引き返せないようにね♪」 

真ん中と言いながらも、しっかりモヒカンの部分だけ残せるようにずらした卑語くん。その楽しげな鼻歌が、俺の心をむしばみます。

太陽が黄色く見えたあの日。

あの日は合宿3日前、桜島ザンギの誕生でした。グッバイ、天パー。

※第二話「孤独な戦い」へ続く

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