この手の映画って、驚きの展開があるって事前に知っただけでネタバレだと思ってるんですけど、公式の「見た人全てが騙される」「すべての人がこの罠にハマる」ってテロップは、安直すぎというか手抜きにもほどがあるじゃないですかね。本編のスタッフがあれだけ頑張って傑作を生み出したのですから、もうちょっと頭使ってほしかったです。
映画自体の出来は素晴らしかったのに、事前にこれ見てたら台無しだったと思います。美味しくできあがった料理に、無理やり香辛料をかけまくって味がわからなくしてるような愚行じゃないでしょうか。
そりゃ事前に身構えて鑑賞すれば、作品側がフェアにきちんと伏線はってる限りは、途中で真相に気づく人も出るに決まってるでしょ。逆に言えば、伏線を全然貼らずに突然出てきた人が真犯人とかやられたとして「予想外の結末」て言われても、アンフェアだから誰も納得しないでしょ?
自分は深読みするオタクという自覚があるので、最近は事前情報を得ないで作品を鑑賞するかという努力をしてるんですけれど、そのかいあって今回はいい結果が出せたと思います。事前情報を知らずに見れて幸せでした。
つーかこんな事しないでも良い世の中になって欲しいものです。なんでここまで自衛しないといけんの……? なんでお金払って映画館に来てるのに、映画泥棒呼ばわりされるの……? なんで周りの迷惑考えずにずっとポップコーン食べたり、堂々と上映中に席を立って後ろの人をジャマしたりするの……?(←ヘイトのあまり、他の憎悪まで連鎖)
俺はただ、純粋に映画を楽しみたいだけなのに……
そういう感じなので、正直言って自分の発言で「事前情報なしに見た方がいい」という文言すらネタバレになってしまってるかなと思うんですが、さすがにあの公式サイトや予告編は見ないほうが効果的だと思ったので、敢えて記載した次第です。こういった作品はほんと紹介の仕方に悩みますよね。しれっと何食わぬ顔で面白かったと言える訓練を積まないと……俺にはまだクンフーが足りない……
このあたりで正気に戻して、映画本編の感想に移ります。
なんといっても冒頭から、ぐっと来ましたね。涙を流しながら点字で手紙を書いているシーン、もうあれだけで「これは傑作なのでは……?」と思わせるに十分な、静かな迫力があったと思います。
そのあとタイトルが出て、いきなり第二章というテロップからはじまったのも秀逸でした。心の中で、なにか見逃したのか、それともとてつもない仕掛けが待ち構えてるのか……と戦々恐々な思いが揺らぎながら見てましたが、その期待は裏切られないどころか、期待を超えた面白さでした。
ミスリードの仕方がうまかったと思います。少しずつ事件の真相を出していき、編集者が怪しいとか思わせることで、主人公の立ち位置まで頭が追いつかない状況を作り出していたと思います。写真家の「覚悟はあるの?」というシーンや、能を見に行ったシーン、門で主人公と写真家が向き合って断絶されてるシーンなど、印象に残るシーンが多くて素晴らしかったです。
姉の狂気もかなりのものでした。弟のために誘拐や殺人をするだけでなく、恋人を殺した相手と寝てしまったというトラウマを植え付けさせるとは、皮肉にもほどがあります。しかしながら、それを更に上回る、物語後半での冷酷な復讐の真相が凄すぎました。主人公が編集者に向かって「先走るなと言ったでしょう」と意趣返しをした瞬間、かなりの衝撃が走りました。
この記事読んでる人の殆どに通じない例ですけれど、某カード式バトルRPGで前作の音楽がオーケストラで演奏されるバトルシーンにて「この曲の意味、技の名前からすると……まさかこれって、そういう事……?!」と一足先に世界の構造に気付いてしまった時や、某韓国映画で祈祷バトルしてる主人公がまさかあの人物を模しているのでは……?!と思ってしまった時みたいな衝撃に通じるものがあったと思います(まず伝わらない例えだと思いますが、未見の人へのネタバレを配慮した結果なので、気にせずに読み飛ばしてください)。
この映画の例で具体的に言いますと、このシーンって、とある女性が所在不明なのを編集者が訴えた時に「先走るな」とか「先入観は危険だ」と語っているわけです。そんな現在の状況、そして途中からラインでしか描かれてない人物が居るという状況が一瞬で思い起こされた瞬間、電気が走ったように思いついたんですよ、「まさか、焼かれた女性は……」と。
こういう貴重な経験ができたのは、この作品が丁寧に伏線を描いていたからでしょう。思い起こせば、あれも気になるし、これも気になる、と実に細かい作り込みゆえだと思います。情報のちらつかせ方が実に巧みでした。
それでいてこの映画がトリックのためのトリックみたいな薄い作品に終わらず、人間がそこに居るかのような実在感をもって描かれていたのも素晴らしかったですね。
特に印象に残ったのは、図書館での出会いのシーン、雨の中で「居るんでしょう!」と言って「どんなに酷いことしてるかわかってるの?」と慟哭したシーン、そしてラストで偽の恋人役の女性が「自殺してたほうがマシだったかもね」と言った直後、別れ際に少し無言になってから「途中からは本気になってた」と訴え、それに対して無言で主人公が去るシーンですね。
役者さんの知識がまったくないので帰宅後に検索してみたら、主人公がEXLIEのメンバーの方だったと知って驚きました。まったく先入観なかったので、主人公は前半は存在感無いなと思ってたけど、後半はそれが効果的になって冷酷さが際立っていて、いい演技だったと素直に感心できてよかったです。
最近のマンガ実写系邦画にありがちな、有名なアイドルを出して観客を動員するだけの、志が低そうな映画とは一線を画するものがあったと思います。実にいい映画でした。
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