これまた子どもをもつ親としては、胃が痛くなるような映画なんですが、かなり凄い作品であったのは確かです。エロ要素は皆無なのにR18+なので、いろいろと覚悟してもらう必要がありますが。とはいえ直接的なゴア描写はなくて、間接的な描写が盛りだくさん、といった感じですね。
あらすじをさらりと見ると、シチュエーション的には『プリズナーズ』と似ている部分があると言えますけれど、両者がかなり異質な作品になってるのが興味深いところです。
一般的には『プリズナーズ』の方が娯楽性が高くて面白いと言われそうですけれど、個人的には敢えて『オオカミは嘘をつく』の方を推してみたいです。この存在感はなかなか無いものだと思いますので。
イスラエル映画、ときいて殆どの人がまるで印象を持ち合わせてないでしょう。自分もその一人です。イスラエルの情勢とかを知らずに見ても楽しめる作品ですが、イスラエルは建国してから戦いが絶えることがなくアラブ人とは敵対関係にある、くらいの知識があったほうが、より楽しめるかと思います。
見た目は普通に子どもが遊んでるだけなのに、異様な緊迫感をもつ冒頭のシーンから、ラストまで常に緊張感をはらんだ作品です。詳しく述べるとネタばれになるので、ここでは具体的には言えませんが、ミステリー映画として実によく出来ていました。できれば二度見てほしい作品です。以下はネタばれ感想になりますので、鑑賞後の方のみクリックして閲覧されてください。
全編シリアスだったり痛そうなシーンだらけなんですが、ブラックユーモアの要素もかなり多いですね。なんでそこで電話かかってくるの?と脱力させてくるのは、そのあとの惨事への落差を激しくするためなんでしょう。
いろいろ怖いシーンが多いですが、個人的に一番うわぁと思ったのは、ケーキを焼くシーンですね。すんごいポップな曲が流れるなか、地下室に容疑者を捕まえて拷問している父親が、すんごい嬉しそうに薬剤入のケーキを焼いて、冷蔵庫にいれるという一連のシーン。残酷なシーンだらけの中でも異質感ありまくりでしたが、だからこそ妙に怖かったです。静かに狂ってる、という実感があって。
あと父親乱入のくだりが驚いたというか笑いました。なんで息子をとめないんだ、と思ってましたがイスラエルは暴力が日常的に存在している、という下敷きがあってこその展開なのでしょう。
「火は試したのか」とナチュラルに発言するあたりとか、バーナーで焼いて「最近は健康のために野菜しか食べてないが、やはり肉の焼ける匂いはいいなぁ」というあたりとか、焼いてるのが人じゃなければ日常的なんですけれど。もはや犯人と同じ手順を試すとか関係なくなってるし。おまけに終盤では薬剤入りケーキ食べて倒れるし。見た目と違ってなかなか濃いキャラでした。
本作で一番すごいと思ったのは、映像叙述トリックですね。ケーキをバレエ少女に渡すシーン、二度目に見ると全く違う意味合いをもってくるというのが見事すぎます。そこに気付いてしまうと、サッカーボールが入るくらいの黒いゴミ袋を捨てに行くシーンとか、「自分を見捨てたら後悔するぞ!」のセリフの意味など、色々と印象が変わってくるのではないでしょうか。
作中でのアラブ人の描写も印象深かったです。登場の仕方が意味ありげで、不気味なような、神々しいような、不思議な雰囲気でした。悪事にまったく手を染めてないアラブ人、そしてイスラエル人同士で殺し合っている状況、というのが本作品のテーマの一環を表しているのかもしれませんね。刑事が容疑者を違法に追いかけた結果、悲劇に遭遇したりするあたりも含め。
タランティーノ絶賛という謳い文句なので、万人向けとは言いがたい人を選ぶ作品ではあるんですが、強烈な個性を映画に求めたいというマニアックさがある方は、是非鑑賞してみてはいかがでしょうか。ハリウッド映画にはない佇まいがあると思います。
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