読む前はみんながはっきりしたこと言わないから、メタフィクションか、叙述トリックか、主人公が犯人か、そういうの超越したトンデモ系すら覚悟してたんですが、良い意味で新本格派的なストレートさがあって面白かったです。昨年発売された某ミステリーゲームみたいな酷いことにならず、面白くて安心しました。
世間で箝口令がひかれていたのは「ゾンビ」の3文字だったようで、うっかりツイートしなくて幸いでした。でも読了後にあらすじや帯をみたら、○○○と伏せ字にはなってるけど、それを予期してなくて驚くであろう人にとってはネタバレなのでは、と思う記述もありますね。
世界が変わったという一文も優秀ではあるんですが、○○○と伏せ字にするくらいならそこも隠すべきなのでは、と思ってしまいました。まぁどこまで情報を小出しにして宣伝するか難しいところがありますよね。推理小説は帯とあらすじを見ちゃいけないし、映画は予告編を見ちゃいけない。これ、豆な。
なにはともあれ、ゾンビの要素を使うのはミステリーではありそうでなかったし、それがどれもきちんとトリックに繋がってて感心しました。これがデビュー作ってのが凄いですね。3つの殺人がどれもゾンビの諸要素を活かして全然別のトリックになっていて、特に2番めの殺人のトリックを選んだ理由が秀逸でしたね。
ただネタバレ忌避に関して言うと、今回は珍しく自分と世間の感性が違ったようです。タイトルみただけで本書93ページからの展開は予想してたので、というかそういう展開になると信じて「ゾンビとミステリーの融合? うわー、これは面白そ〜!」と思って買いましたし、期待通りの展開になって「どうミステリーに昇華させるんだろう?」とワクワクしました。
そういう状態だったので、なんでみんなゾンビを隠したがるんだろうといった心境ではあります。ゾンビなのはあくまで一要素であり、それを活かしたトリックや展開部分をバラすなら絶対ネタバレとも思ったんですが、それはそれとして確かに予想してなかったら驚くのは確かですから、自分としてもゾンビの3文字は禁止事項とすることにしました。
そういえば自分もその昔、映画
『28日後… 』のジャンル自体を自粛してた事もありましたしね(作中でのゾンビ講義で名前が出てたので、ここで書いてもネタバレにはならないだろうと判断しました)。
個人的には素晴らしかったんですが、Amazonレビューをみたら、予想に反して★3くらいだったので不思議でした。まぁサクラや特定のメーカーに★1しかつけない狂信者みたいなのも居る日本のAmazonレビューを盲信するつもりもないんですが、文句つけてる人たちの感想を見るとがなんか微妙な気持ちになりました。言ってることが分かる点もあれば、そうかなぁと疑問に思うような「感想」もあって、逆に言えばそれだけ多くの人の手にこの作品が渡っている証拠とも言えますね。
ライトノベルっぽいという意見がありましたが、そこまであるかなと感じます。中盤のかなり緊迫した状況になっても、ヒロインの胸の件で主人公が慌ててるシーンとかは、確かにそんな場合じゃないだろって気もしますが、そこまで目くじらたてるほどは無いと思います。本作にこの件で文句を言ってる人たちに『ひぐらしはなく頃に』の冒頭部分を読ませてみて感想を聞き出したい所存です。
自分的には冒頭のゆる〜い推理?シーン、かなり好きです。明智の人柄とかがよく表現されていて、推理ゲームのための駒ではなく、そこに人間が居る感じがして。それだけに早く退場してしまったのは残念でもあり、本作で一番驚いた点でもあります。ゾンビものを扱う鉄則にのっとったと言えなくもないですが、登場人物紹介を読んでなければ、探偵役が退場する流れはうまくミスリードされた感があって好きですね。
それ以外の意見で期待してたほどではなかったという件ですが、世の中の人が今までに見たこともないトリックや犯人を期待していて、そのせいで肩透かしに感じられて低評価レビューに繋がったのかもしれない気はしました。80年代、90年代ならともかく、今の時代にそんな希少メタルは掘り尽くされていて、作中でも述べられている通り、組み合わせで斬新さを出したりとか、本作のように独自ルールを盛り込んだりといった時代に来ていると思います。
『屍人荘の殺人』は、麻耶雄嵩氏の作品読んでガツンと来るような衝撃とはまた違って、あのテーマや設定をうまく使って、ミステリーとして真っ向勝負してきた完成度の高さに唸った、って感じですね。「あーなるほど、そうきたかー、よくできてるなー」みたいな心地よさであり、「え、なにこれ、え、ええー?!」みたいな規格外なものを見てしまった感じではないです。
一番感心したのは、これだけ独自設定(ミステリーとして)があるにもかかわらず、ちゃんと伏線をはっていて、謎解きが可能なフェアな作りになっている点です。
インタビューにおいて『正答率を低くするだけなら簡単です。でも解いていておもしろくはない』というのは凄く納得しました。ゲームの難易度調整にも通じるものがありますね。自力で分からなかった場合であっても「そうか、やられたー!」と納得できるか否か、というのは満足度の差に現れてくると思います。
フェアなパズルであるため、事前に提供された情報で推測可能である限り、驚天動地な展開にするのは無理な話でしょう。新本格派ミステリーを何作か読んできた身であるからこそ、この題材でここまで完成させられたパズルを見せられ、感服した次第です。
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