ジャンゴ 繋がれざる者 – オフィシャルサイト
今年のアカデミー賞の脚本賞ということでほんの少し気になってました。実はタランティーノ監督の作品ということで少し興味がわいてきて、黒人の奴隷問題を取り扱った西部劇という概要をみて「どんなんだよ! なんでアメリカでアカデミー賞の候補になってんの?!」とがぜん興奮してきました。
見ようかどうか悩みつつ出張帰りにツイッター見たら、ジャンゴが面白いとか、岩手では上映予定も無いとか、かなり評判になってるのを見てるうち、そういや今日は映画の日だから千円で見れるんだなーとか思ってたら、ついに「今見ないでいつ見るの? 今でしょ!」と天啓がくだったので、まみりんに平謝りしつつ金曜の夜8時の回で見てきました。
3時間近くとかなり長いので途中でトイレに行きたくなったり、退屈になったらどうしようという心配はあったんですが、まったくの杞憂でした。タイトルとテーマ曲が流れてきただけで「これは傑作に違いない!」という予兆を感じさせてくれ、暫くして先が読みにくい展開が続くと共にそれは確信に変わり、そのまま集中力が途切れないまま鑑賞しおえました。
奴隷制度という重い問題が根底にありますが、それでいて娯楽作として実に素晴らしいできばえで、近年まれにみる大傑作です。登場人物がどいつもこいつも存在感がありますが、特に素晴らしいのが元歯科医の賞金稼ぎ、ドクター・キング・シュルツでしょう。
本作は助演男優賞も受賞していると聞いてたので、最初はてっきりディカプリオ氏の悪役っぷりの事かと思ってたら、実は飄々とした歯科医シュルツが受賞してたのでした。鑑賞前はそんなにインパクトがあると感じなかったので想像もしてませんでしたが、見終えた今ならすごく納得します。ただの善人な紳士ではない、奇妙な人物像が実に魅力的な佇まいを醸し出していましたから。
この役を演じたクリストフ・ヴァルツ氏はタランティーノ監督で以前も助演男優賞を受賞した方だというので確認してみたら、なんと『イングロリアス・バスターズ』の悪役だったので驚きました。あまりにも印象が違うので、同一人物とはまったく気づきませんでした。まったく違う役柄で二度も助演男優賞をとるとは凄いですね。
見終えて数日しても鑑賞後の熱が冷めやまないので、ここからはネタばれ全開でもっと細かい感想を書いていきます。
ディカプリオ氏演じる悪人も確かにインパクトあったんですが、老獪な感じではなくお坊ちゃま的な感じだったので、残酷ではあるんですがそこまで観客として憎めなかった感もあったかも。主人公達を惨殺はせずにきちんと取引をする点とか、意外と紳士的なところもあったためか「確かに奴隷に対して酷い男ではあるけれど、殺されちゃうほどまではないんじゃ?」という風に思っちゃいました。とはいえ、その前の静かな腹の探りあいとか、骨相学をハンマー片手に語りだしたり、初登場時にみせる邪悪な笑顔など、いいキャラだったと思います。
というかジャンゴの復讐が容赦なさすぎて、何が善で何が悪なのか、正義とは何なのかが分からなくなって、蒙昧となるような感覚があったため、見た目的には派手なラストだとは思うものの、最後まで爽快感があった!と単純に思える人も少ないかもしれないと感じました。そしてそれが意図的だったのではないか、という点も含めてブラックジョーク的な味付けかな、と。
サミュエル氏の怪演も凄かったですね。視線だけで何かを物語るというか、妙な迫力があるというか。振り返って、ジャンゴの妻を見る。それだけなのに何か不穏なものを感じさせるとは。今回、白人だけでなく黒人内の差別をも彼を通して描かれていたのが、話に深みを与えているかと思います。それはそれとして、終盤はサミュエル氏のマザーファッカーいただきました!といった感じで、氏のファンはこれだけでも大満足じゃなかろうかと。
この映画の唯一の良心ともいえたミス・ララには死んでほしくないなー、と思ってたんですが、タランティーノ作品だし容赦なく殺されそうだなー、とか思ってた矢先に殺されたので、少し笑ってしまいました。
監督があんな役で出るとは思いませんでした。えー、割と重要な役になりそうだから、このままずっと出演するの?と思った矢先に木っ端微塵になったところで大笑い。なんてオイシイ役で出てくるんだ!
握手の直前まではそんなに血みどろでもなかったんで、タランティーノ監督も年相応におとなしく渋めの演出するようになったのかと誤解してました。普通の監督だったら、握手のあと無事にその場は終わり、数年してからジャンゴが最初に殺した賞金首の息子と一騎打ちになる、といった感じに西部劇っぽい締めくくり方になりそうでしょうけれど、やはりこれはタランティーノ作品だったのでした。血まみれっぷり大サービスが始まって、やっぱりいつも通りなんだなー、とニンマリ。一生この人は現役じゃなかろうか。
あれだけジャンゴに「冷静になれ、こんなところで死にたくはない」といっていたドクター・シュルツが、奴隷の残酷な最後がフラッシュバックするうちに、握手の先の行動を起こしてしまった点が印象に残りました。他の人間を手にかけるつもりはなかったから「すまん、我慢できなかった」と苦笑いした瞬間に撃たれてしまうあたり、最後まで飄々としましたね。
ジャンゴとドクター・シュルツの最後の別れで、ドイツ語でお別れを言ったシーン。とてもしんみりしました。
馬車の上の歯が忘れられない。ひょこひょこ。ひょこひょこ。
タランティーノ作品が好きな人なら文句なしに楽しめるでしょうし、少し暴力的なシーンはありますが直接的な描写は極力避けているので(とはいえR15+ですが)、目を背けたくなる程でもないと思いますので、気になってる人は安心して楽しまれてみてください……この近年稀に見る大傑作を。
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