第5回ホラーサスペンス大賞、とあるんですが実際はホラー要素というか神秘的要素は皆無であり、現実に起こりえるかもしれないサスペンス、といった体裁です。まぁ作中で描かれている人々の心のひだが、ホラー的と言えなくもないですけれど、ホラーホラーしたものを期待しないで読んだ方がいいと思います。
文章力がかなり際立ってると思います。妙齢の女性であるからこそ書きえた、というと大げさかもしれませんが、じめっとした細やかな描写が印象に残ります。逆に言うとストーリー展開はそこまで意外性はないんですけれど、淡々と人物描写だけで地味に先を読ませる力がある、とも言えます。
登場人物に感情移入ができる、といった読み方は出来なかったんですが、読み進めるうちに登場人物の多面性からか印象が変わってくるのが味わい深かったですね。
個人的に一番心に残ったのは、作中に出てくる油絵(猟師達が波の下から白い何かを引き上げようとしている図)です。
何故だかは分からないんですが、文字列から自分の脳内に描かれた油絵は、とても迫力がありました。作中でも意外と暗喩的に大きな意味合いを持つんじゃないかとは思いますが、それ以前に読書で絵が見えるように思える、というなかなか無い貴重な経験が出来たのが嬉しかったです。
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