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小噺

エロガッパ

俺も学生時代は相当短気でした。新たに社会人になるさいに、少しは大人にならんといかんな、と思ったわけです。入社式の社長の挨拶も真面目に聞いて、やる気万々でした。10分後には寝てましたが。やっぱり「俺=俺」の公式強し。右辺と左辺を入れ替えたくらいじゃ、何も変わりません。
入社式の後、オリエンテーションが始まりました。各自、座席指定です。暇だし、殆どの人間と同じ寮に入るわけだし(とはいえ、俺は研修の二ヶ月間だけ東京の寮に入るだけだったんですが)、何となくそこらの奴と世間話でもしようかと思ったわけです。で右に居た人間は既に話し込んでるようで、今から話の輪に入るのもなんだな、とか思ったんで右の奴に話し掛けました。話し掛けてしまいました。
「ご主人様、今日も遅いなぁ……早く散歩に連れてってくれないかなぁ……! あっ、ご主人様だ! わーい!」
という時の小犬のような表情、とでも言うんでしょうか。それを見た俺としては話し掛けるんじゃなかった、と開幕早々にしてリタイア直前。でも我慢して続けてみました。継続は力なり。こんな事で使う言葉じゃないが。そして、何だかんだで趣味の話からゲーム話へ。だって小説とか映画とか興味なさそうだったし。
「ふーん、ゲームするんだ(意外そうに)」とか言ってみました。ちっとも意外ではない、というよりツラ見た瞬間ビンゴだと直感してたんですが。今度からは人の顔見てから話し掛けないとネ!
で、奴は言いましたよ、「僕、渋いゲームが好きなんだ」って。俺、低容量の脳で考えてみました。答えは3択。さあ、君も考えよう!
1:トリオ・ザ・パンチ(渋いと言って構わないなら、相当のいぶし銀だろう。そういやデータイースト伝説(仮)はどうした? また椎茸?)
2:SDI(確かに渋いな。ゲーム性の高さは凄いもんがあるし、ストイックだし。でも俺的には「トラックボール=肉挟み」なので辛い)
3:戦場の狼2(女キャラが居ないし、戦車で敵踏めるのが渋いな。鉄の質感も最高だし、男なら火炎放射器オンリークリアは当たり前だよな)

ハイ! 答えは4番だったようですネ! 
速攻話を切り上げ、オリエンテーションを真面目に聞いてる振りをする俺ってまさしく大人、社会人そのもの。大人の付き合いって奴ですか?
でも真面目に聞いてるのも耐えられんかったんで、やつのあだ名でも考えてみました。こういうのは脊髄反射でいくと上手くいきますよね?
俺の脊髄が奴に授けた恩名は、そう、エロガッパです。後頭部がマジ薄いッス。外国の坊さんみたく。それは闇夜の満月のごとく。


ある日の夕方、俺が寮に帰ってゆったりとゴールデンアイをプレイして謎の吐き気にぐったりしていると、ノックが。なぜ開けてしまったんでしょうか、俺。奴が。エロガッパが。扉の向こうに。以前の俺なら無言で扉を閉めて、忘れずに鍵もかけておく所でしたが、躊躇したのが運の尽き。
「ねえ、明日から一緒に出社しようよ?」 その道に通ずる者特有の下卑たニヤニヤ笑いがたまりません。あなたならどうしてました?
1日目。5分遅刻。やってきていった言葉は「さあ、いこうか」
2日目。10分遅刻。「いや、ネクタイの絞め方が……」
3日目。15分遅刻。「いや、眠いねぇ」
4日目。20分遅刻。「急がないと遅刻しちゃうよ、ホラ!」 ちなみに奴の部屋は同じ寮の同じ階。直線距離にして5メートル。
なんか1ループごとに5分送れるようなルーチンで出来てますか? 4日目までは我慢しましたが、5日目、予想通りの実行結果に遂に俺、奴をおいていきました。そして社内での講習の休憩時間、奴がコソコソ近寄ってきました。
ちなみに4日間、一度も謝ってません。そして5日目の、この時も。流石にあんまりなんで、俺、さりげなくズバリ聞いてみました。「なんで待ち合わせに遅れるの?」奴は言いました。ニヤニヤしながら。
「いやあ、ときメモのやりすぎで寝てなくってさあ
プチチッ。
5日目にしてこめかみの血管の切れる音が聞こえました。最短記録です。あれ以来、奴とは口をきいてません。寮には2ヶ月しか居ないからもういいや、つーかそれ以前の問題。絶対許さん。
そのときは同じ支社に配属になって、同じフロアで直線距離にして5メートルに位置することになるとは思ってもいませんでした。そして印刷の順番がまわってこないなぁと思って印刷機を見たら、膨大なトキメモキャラ画像の紙があったりするとも思いもしませんでした。どうしてクビになりませんか、エロガッパ。


そういやエロガッパは研修中に誰からも話し掛けられず、昼休みも孤独を保ってました。そんなある日、奴はブックカバーをかけた文庫本を読んでやがりました。いつものようにニヤニヤしながら。はっきり言って、端から見てて気味悪いです。皆が話し掛けたくないのも無理無いです。
そういや最初の自己紹介で、趣味はマンガや小説やゲームとか言ってやがりました。俺も人並み以上に小説やマンガを読む方だと思うんで、気になってしまいました。やめときゃいいのに。
サッ、と後ろを通過しながら見てしまいました。何かまでは言うまい。ただ、それが小説ではなくブックカバーをかけたマンガであり、普通人が沢山いるような所で読むような類の物ではなかった、とだけ言っておきます。さすが、エロガッパ!
ほんで俺らも博多支社に配属される日が来ました。で、お決まりの自己紹介があります。俺は無難にマンガや小説やゲームが好きだとか言っておきました。大人向けの渋目の物が好きです、とか一応言っておきました。
でもタイトルや作家までは言いませんでした。だって、アゴタ・クリストフとかの名前だしても誰にも通じないと思ったから。ま、普通の人で読む人はいないと思ったんで、社会人は忙しいし。
そして奴も自己紹介をしやがりました。「今の嶽花君と重なっていますが、僕もマンガや小説やゲームが好きで……」
重ならねえええぇっ!!!
フォントいじりくらいやっとかないと収まりません。どっちにしても収まらんけど。おかげさまで、奴と俺が同類項だと見なされるようになっちまいましたとさ。
そんなある日、A先輩が日曜出勤して、仕事場の奴のハードディスクを見たんですよ。共通で進めてるプロジェクトの都合上。でも奴は自分勝手な場所にフォルダを置いてたので、なかなか見付からない。するとその時「プライベートフォルダ」なるフォルダに気付いたのです。
その時A先輩は思い出したそうな。ハードディスクの空きが全然無いから、分けて下さいとかB先輩が奴に言われていたけど、と。プロパティ見ると容量300メガだったんで無理も無いですな。で、開けてみるとぜーんぶ、
エロゲー!
会社のハードディスクに、容量無いから先輩にもらって、エロゲー!!
300メガショーク!!!!!

で、中を見るとたっくさんのファイルに混じって「op.exe」なる実行ファイルが。先輩は早速ダブクリしました。すると
画面一杯におっぱい
そしてカーソルはにぎにぎした拳に!
試しにおっぱいをクリック、ドラッグ、アーンド動かし動かししてみると、カーソルに掴まれたおっぱい、ユレユレ、ユーレユレ!
先輩が少し頑張ってみると、なんか面をクリアすればするほど、巨乳になる仕様だったらしいです。目指せ、Zカップ!てな仕様らしい。
そこで先輩は気合入れておっぱい揺らして、ハイスコアランキングにB先輩の名前を入れておいたそうな。
しかもこれ、シェアウェアだったらしく、入金の形跡が会った模様。しかも会員用のパスワードまでご丁寧にメモ帳に。
取り敢えずメモ帳に「バーカ!」と書いておいて、先輩はスタートアップに全てエロゲーを突っ込んでおいたそうです。
出社してパソコンたちあげた時の奴の顔は見物だったらしいであります。パソコン立ちあげて暫くすると、ハトが豆鉄砲食らったような顔になった次の瞬間、マウスをしきりに動かした後でA先輩ではなくB先輩の方をじーっと、何かをいいたげな顔で見ていたらしいです。何を言いたかったのやら。
「僕のおっぱいに何をする!」
とか心の中で思ってたのだろうか。
追記:次の日、奴のハードディスクの空き容量は300メガに戻っていたそうな……

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