はじめに
昨年の暮れ、そろそろ今年読んだ小説のベスト10とか考えておかないと……と思ってた時期に飛び込んできました、今年一番の収穫と言ってもいいくらいの爆弾的傑作が! これを読まずして2022年の小説を語るべきではありません!
発売直後にとりいそぎ表題作を読んだだけでこう確信したものですが、その他の作品も読み終えたのが大晦日だったので、年明けの本日、元旦に気合をいれて感想を書かせていただきたく思います。2023年に2022年の小説を語ってはいけないなんて事はないでしょうし。
全8編から成る”短編集成”ですが、表題作である『11文字の檻』は100ページ以上もあります。100ページ以上の短編と聞いて”日に30時間の鍛錬という矛盾”という言葉を思い浮かべつつ、小首をかしげつつ指を顎に当てながら考えました。
短編とは何か。ロックや本格ミステリと同じくらい定義が難しい言葉であり、一概ではいえないのだが、狭義では比較的短い小説のことを指し、一般に原稿用紙10枚から80枚程度の作品が該当するらしい。Wikipediaがそう語ってる。
とはいえ具体的な長さは決まっていないようなので、青崎先生がこれは短編ですと言えば短編に違いない、そう理解しておけばまぁ問題ないと思う。したがって「カレーは飲み物!」というくらいの勢いで「11文字の檻は短編!」と言い切っておくことにします。
各話の感想
バラエティに富んだ収録作、どれもこれも面白かったので、それぞれ感想を書いていきます。
加速してゆく
事故に関する描写がリアリティ溢れていて、筆致力の凄さに感服していたら、最後の参考資料でようやく気づきました……これは実際に起こった事故を元とにされていたのだ、と。
人はすぐに忘れていき、物事は風化していくものだとは思いましたが、自分自身がここまでキレイさっぱり忘れていたのにショックを受けました。もう50歳すぎてるし……と思いはしたものの、これは老化というより記憶力の問題なのかもしれない。
ミステリー要素としては、青崎先生の作品らしくほんの僅かな手がかりから、論理的に思わぬ真相に行き着くあたりが良かったです。ぼやかされた真相が、たった一単語で鈍感な自分にも強烈に提示される会話の妙も見事でした。
鶫ヶ森の硝子屋敷
青崎先生といえば『体育館の殺人』で綾辻先生のファンの度肝を抜いて、そのあとも『水族館の殺人』『図書館の殺人』といった、どこにでも居そうな学生が絶妙な会話の妙で冷静かつ論理的に事件が解決するシリーズを書かれているという印象でした。なんてクレバーな作風なんだろう、と。
そしたら本作はもうすごい、すんごい。
現実には絶対になさそうな、奇抜な館、奇抜な探偵、奇抜な事件。
「男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」と言われたら、無言で首を縦に振りまくるばかり。
メルカトル鮎を超えるくらい笑ってしまうくらいの速攻解決で、おもしろーいと読み始めたらあっという間に終わってしまって、面白さが異様に凝縮されまくり。
オレの中の中二心が刺激されまくりです! 当方、とわの市在住の17歳(44進数換算)なので、4年くらいは誤差でしょう。
さりげないセリフの中で「え、もしかして……?」と思わせてきて、解説にて他作品と世界観が共通してると名言されててはしゃいじゃいました。あまりにもキャラ設定などが良すぎたので、このままシリーズ化してくれないかと思ったら、青崎先生的にはシリーズ化の構想があるそうなので喜ばしい限り。
この続きを読むまでは死ねないな……
前髪は空を向いている
読み終えた後、青崎先生らしい意外なオチなどがなくて驚いたのですが、女子学生らしい会話の構成が見事で、これはこれで読んでて楽しかったなぁ……
と満足してたら、解説を読んで驚きました。
まさか本作が、連載中漫画作品の二次創作だったなんて……
創元推理文庫に二次創作が収録されているという状況そのものが意外なオチすぎる……
なお青崎先生による解説文が全8作に対するそれらの中で一番長く、しかもとある短編よりも長いあたり、狂気を感じさせてくれます。正気では大業ならざる。
オレも『わたモテ』を読んで、狂ったように語る義務があるのではなかろうか。
youe name
なんと3ページで終わるのですが、あまりにも鮮やかすぎて読了後に再読しちゃいました。
本編の内容も驚きに満ちていますが、青崎先生が解説文にて「自分はどんでん返しが得意でないので」と語られてたのが一番驚きました。
得意の定義とはなにか。小首をかしげつつ指を顎に当てながら考えた結果、青崎先生は『嘘喰い』48巻とかと比べて発言されてるんじゃなかろうかという結論に至りました。
飽くまで
本編のブラックユーモアとしての完成度もさることながら、「黒猫を飼い始めた」という一文から始まる縛りのショートショート企画の一遍であるという事実が面白い。この条件を聞いてから、その次に続く文章がああなるとは……と二度おいしい。
映画はスタッフロールまで席を立つべきではないし、この単行本は解説まで見た方がよいですね。解説文がここまで面白くて、笑わせてくれるなんて、そうは得られない体験でしょう。
クレープまでは終わらせない
食塩水はどこをすくい取っても一定の濃度になるものらしいですが、壮大で骨太なSF大作の中の一箇所をすくい取って掲載されたかの印象があります。
<外蟲>の目的は何なのか、<外蟲>とは何なのか、という魅力的な謎が解き明かされる長編の存在を夢想してしまいましたが、こういう謎は解き明かされないミステリアスなままを保っているのもいいかもしれないと思いつつページを捲る手を止め、どんなクレープを食べたんだろうな、と思うのでした。
恋澤姉妹
タイトルから内容を想像できない作品だらけの短編集でありましたが、本作が一番想像を超えたところにありました。
出会った人間はほぼ殺されてしまうという魅力的な都市伝説とかした存在を、ロードムービーさながらに生き残った人々に話を聞くことで追いかけていき、読者の興味が高まりきったところで訪れる結末、そして最後のセリフ。もう超COOL!!!
百合アンソロジーにこの作品が収録された事実にもビックリですが、思い返せば百合という条件は満たせてるんだよなぁと納得しました……小首をかしげつつ指を顎に当てながら思索にふける必要もなく。
11文字の檻
この設定を見た瞬間に、絶対読みたい!と強く思いました。
お好みでのりをそえるまでもなく、これ絶対おもしろいやつでしょ!
近未来の日本とおぼしき国が舞台。政府にとって不都合な作品を発表した罪で収監された、官能作家・縋田。人文学徒ばかりが集められたこの更生施設では、〈政府に恒久的な利益をもたらす11文字〉を見事正解できれば、放免されるという。囚人たちは一日中パスワードを考え続け、壁も床も文字で埋め尽くしてゆく……。百億通り以上ある途方もない数の組み合わせから、縋田は果たして正しいパスワードを見つけ出せるのか?
監獄脱出のためのパスワードを当てろ!
・パスワードは東土政府に恒久的な利益をもたらす11文字の日本語です。
・句読点、や>等の記号、アルファベットは含みません。
・漢字、長音符号、拗音や促音の子書き文字も1文字として扱います。
医師から「自律神経を落ち着けるため、規則正しく早めに寝るのもいいですね」と指導を受けていたので23時前には寝ようと心がけていたにもかかららず、0時直前に本作を読み終えてしまい、その直後に『ジャンケットバンク』[A] … Continue reading99話の配信始まったので、自律神経が落ち着くわけもなく寝付けずに困りました。
正直、最初から分かってました。こんな面白い作品を前に、読む手を止めるわけがなかろうと。その後に『ジャンケットバンク』とのコンボになって寝れるわけがないと。人類は100メートルを5秒で走れないし、コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実じゃッ!
最初から最後まで「一体どうなるんだ?」という知的興奮に満ちた展開で、絶望的な状況にもかかわらずあの手この手で知的に活路を見出し、思わぬ展開を迎えるエピローグが最高でした。
青崎先生いわく「一番入りたくない刑務所について考えていたら、設定を思いつきました」とのことなので、「世界一行きたくないレストラン」こと『ザ・メニュー』に対抗して、『ザ・ケージ』というタイトルで映画化してみてはいかがでしょうか。レイフ・ファインズがパァン!と手をたたくのに対抗して、スーパーボールをバァン!と投げつけるシーンをブラッド・ピットに演じてもらうのはいかがでしょうか。ええ、『マリアビートル』が『弾丸列車』に変化を遂げるようなイメージしてますけれど、それがなにか?
ここまで妄想しましたが、ふと正気に戻りました。本作は洋画じゃ無理ですね。最後まで読んだ貴方になら分かっていただけると思いますし、冷静な未読の方であれば設定を読んだだけでも分かっていただけるでしょう。
本作を洋画化してもらいたいと考えたのって、まさか世界でワタクシだけ……?と冷静になったところで申し上げます。
そこで代案なんですけれど『あの男』を映画化された石川慶監督にお願いしてみてはどうでしょうかねキャストは特に誰がいいとか希望はないのですが石川監督なら実力派の俳優さんを採用されるのは間違いないからおまかせでいいと思うんですけれど敢えて発言させていただきますと統括管理責任者は『死刑に至る病』の怪演が印象深かった阿部サダヲ氏がいいです(ここまで句読点なし)。
作者の方について
ここまで作品について語らせていただきましたが、せっかくなので作者である青崎有吾先生について、僭越ながら紹介させていただきます(せっかくだから赤い扉を選ぶぜ!的な勢い)。
書かれてる作品も面白いですけれど、なんと日々のツイートもユニーク。青崎先生自体が面白すぎる。小説家の方が大真面目にこんなツイートされてるのは度肝抜かれました(でも真実なんだろうなぁ……)
やっぱり作家デビューするための1番の近道は『嘘喰い』を読むことなんだよ
— 青崎有吾 (@AosakiYugo) November 10, 2021
最近のツイートで一番印象に残ったのはこちらでしょうか。ピエ郎さんのジャブに対してカウンター出してくるの強キャラすぎるて……
嘘喰いに出演した奴のほうが現状強いだろ! https://t.co/9BqXiF3SJP
— 青崎有吾 (@AosakiYugo) November 11, 2022
あと青崎先生は鑑賞された映画などのツイートをされることが多いんですけれど、ネタバレを回避しつつ、それでいて人の興味をそそらせる書き方がたくみで、ついつい映画館に足を運んじゃいますね。最近でいうと『ザ・メニュー(感想)』は先生のツイートをきっかけに観てきました。
『ザ・メニュー』観た。料理を食すとは、どういうことか? それを作った者にすべてを委ね、頭を垂れ、征服されることである。ひねった展開や意外な真相を排し、ただひたすら「突き詰めすぎたシェフ」による究極の料理をぶつけられる105分。快作にして怪作。世界一行きたくないレストラン。
— 青崎有吾 (@AosakiYugo) November 24, 2022
この記事を書き終えたあと、スラムダンクの映画を観てきます。オレには真実を確かめる義務がある……
『THE FIRST SLAM DUNK』観ました。
一本の映画としてとんでもなくべらぼうに面白かった。齧りつくように見てしまって買ったスプライトが一口も減らなかった。ちょっとでも興味ある人は今のうちに絶対見にいったほうがいいですスラダンまったく知らなくてもぜんぜん問題ないと思います— 青崎有吾 (@AosakiYugo) December 30, 2022
みなさんも是非、青崎先生をフォローされてみてはいかがでしょうか。
まとめ
感想とは何なのか。こんなんで良かったのだろうか。小首をかしげつつ指を顎に当てながら考えましたが、批評ではなく感想を書いたつもりなので、これでいいのだ、と思うことにしました。
「なんでオレは元旦からこんな長文書いてるんだろう」とか「一滴も酒を飲んでないんだけどなぁ」とか考えてはいけない。ノヴァ博士も言ってるじゃないですか、”この世に「正気と狂気」など無い。あるのは一千の貌の狂気だけです”、と。
なにはともあれ、青崎先生の今後の作品も楽しみにしてます!
地雷グリコ、今年あたりに単行本化されると信じてます!
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