本書について
まずは未読の方向けに、概要を説明します(後半に事前に断りをいれてネタバレ感想を書いてます)。
作者の青崎有吾先生は、世界一『嘘喰い』が好きな小説家という説が有力です[A] … Continue readingが、そんな青崎先生が描く数々の心理戦は、まさに嘘喰いで感じた知的興奮そのものです。”人が死なない嘘喰い”と言っても差し支えないんじゃないでしょうか。
本書はギャンブル勝負を描いた中編五作の連作集になります。”グリコ”を筆頭とした誰もが知ってるゲームに、ほんのひとつまみの新ルールを加えてるオリジナルゲームによるギャンブルなんですが、これがもうルールを読んだだけで面白そう!と思って惹きつけられる代物なんです。一見複雑に見えないルールなのに、ゲームが始まるとまさかあそこまでの読み合いに発展してしまうとは……
なお最終話だけは正直ルールについていけるか不安ではあったんですが、全編に渡ってシンプルで分かりやすくそれでいて意外な決着方法が待ってますので、多少ルールや展開が分からずとも、雰囲気で読んでしまっても大丈夫なんで心配ご無用。漫画『ジャンケットバンク』読んでる時に↓こんな風になってる自分が言うので信じてください。
そういうわけで本作は『嘘喰い』や『カイジ』や『ライアーゲーム』や『ジャンケットバンク』が好きなギャンブル漫画ファン向けのご褒美みたいな小説です。直球に言うと”人が死なない嘘食い”です。
この説明で気になった方は、今なら第一話が無料公開されてますので、ぜひこの機会に読んでみてください。
ルールについて
これまでの説明でもまだ読みたくならない人も居ると思います。
自分のプレゼン力が足りてなくて申し訳ない。
少しでも興味を持ってもらいたく、ここからは各ゲームのルールを書いていきます。
地雷グリコ
ジャンケンで勝ったら階段をのぼるいわゆるグリコ。
ただしお互いに「地雷」を仕掛けあい、踏んだ相手を階段から降ろしていく事が可能。
坊主衰弱
百人一首の絵札を使い、三種類に分類した絵札でペアを作る神経衰弱。
なお坊主をめくると集めた絵札は全没収。
自由律ジャンケン
誰もが遊ぶ、グーチョキパーを出す、あのジャンケン。
独自の手を作り出し、どのような効果があるか対戦の中で探り出せ。
だるまさんがかぞえた
だるまさんがころんだ。ではなくかぞえた。
事前に入札しあった数でしか、お互い行動できない。
フォールーム・ポーカー
3枚のカードを使って役を作るポーカー。
ただしあるルールの追加により、複雑すぎて今までの勝負では使われる事がなかった。
自分が本書を読み始めるまで
本書には下記5話が全部収録されています。
・地雷グリコ(「小説屋 sari – sari 」2017年11月号)
・坊主衰弱(「カドブンノベル」2020年11月号)
・自由律ジャンケン(「小説 野性時代」2022年3月号)
・だるまさんがかぞえた(「小説 野性時代」2023年2月号)
・フォールーム・ポーカー(書き下ろし)
実は雑誌掲載時の話は電子書籍でかなり前から購入済でした。最初の『地雷グリコ』の時点で「この味は!……嘘喰いの味だぜ……青崎先生(ベロンッ)」というネット感想を見かけたので早速確保だけはしたんですが、自分は勿体ない性分といいますか面白いものはここぞという時に味わいたいという性癖がありまして、どうせなら単行本にまとまってから一気読みしたいと考えて我慢してました(当時6年もかかると知ってたら我慢できてたんだろうか……)
とはいえ今年の最初に心臓の検査入院することになって、たぶん大丈夫だけど検査で死亡することもあると言われ、このまま読めない可能性もあるならと覚悟を決めて入院中に読んでおくかと思ったら、そのタイミングで第四作がもうすぐ雑誌掲載されると聞き及んで、読むか読まざるかと真剣に悩み、今まで読まずに我慢することにしました。そのギャンブルには成功し、こうして単行本が発売されるまで生き延びることができたわけです。
単行本を買うのは確定なので、問題はどの媒体で買うべきかを考えました。Kindleで単行本を買えば福岡在住でも発売直後に読めるとは思ったものの、紙書籍として欲しかったのと、帯も出来が素晴らしいので手元に欲しかったので紙書籍を買っちゃいました。
そして四話まではKindleで楽しみ、最終話だけは紙で読むという人生初の読書体験をするに至りました。
紙をめくるあの感触は至高ではあると自覚はあります。しかしながら老眼だと本を読むのが微妙につらいので、iPadをタブレットスタンドで固定し、Kindleでフォントの大きさを調整し、寝っ転がりながらページクリッカーで手を伸ばさずにページをめくって読書、という手法が快適でした。目玉と指先しか動かさず、読むだけのマシーンになったような気分……
こうしてKindleで最終話までは読み終え、続きを紙で読もうとする際に栞を用意することにしました。本書はミステリ小説ではないですが、青崎先生ということでミステリーゲームの『レインコード[B] … Continue reading』栞を準備して、最終話に向けて覚悟完了。
実際のところ面白すぎてあっという間に読んでしまって、栞の出番はありませんでした。冷静に考えたらそうなると分かっていただろうに……
自分は嘘喰いを連載誌で毎週読んでたんですが、嘘喰いをコミックスで一気読みするとこんな気分になるのかもなぁ。
なお地雷グリコの単行本版だと雑誌掲載時にはなかった図表が追加されており、再読した時はわかりやすさに感心しました。とはいえ雑誌版だとイラストが付いてるので、そういう意味ではお得感があります。つまり雑誌版も単行本も買った自分には隙がなかったと言えるのではないでしょうか(後付結論)。
ネタバレ感想
ここからはネタバレ感想になりますので、読了後にお読みください。
最後に
嘘喰いが連載終了したあと、この先自分たちは何を読んでいけばいいんだ……と嘘喰いロスになった人も多いかと思います。自分の場合、パンがなければケーキを食べればいいんじゃない、嘘喰いがなければ嘘食いを読み直せばいいんじゃない、という精神で定期的に再読しては飢えを誤魔化し、それでも我慢できずに嘘喰いの全巻感想を書いちゃったくらいなんですが、青崎先生の場合は「貸せ、嘘喰いはこうやる」と言わんばかりに凄まじいギャンブル小説を書き上げることで飢えを満たそうとされたのではないでしょうか(かなり個人の妄想が入ってるのは自覚してます)。
もちろん本作は嘘喰いのパクリなわけはなく、嘘喰いそのものな要素は全くないんですが、読了後の興奮はまさに嘘喰いを読んだかのような熱量でした。読み終えた後は体が熱く感じたので、体温計ではかったら実際に1度くらい体温高くなってました。地雷グリコは健康によい!
そんな凄まじい心理戦だらけなのに、それでいて作品全体としては高校生らしい瑞々しさがあり、読後は爽やかな印象が残って素晴らしかったです。この面白さはもう続編を期待しちゃうしかないですね。
なお映像化の際に『地雷グリコ』のタイトルのままにできないかもって話があるようですが、できればこのタイトルのまま映像化してほしいですね。読んだ皆さんには分かるんですけど、これ以上のタイトルは無いです。シンプルにて作品全てを体現してます。
個人的には今年読んだ小説・映画・漫画・ゲームなどの中で、余裕のベスト3入り[C]今年も色々と面白い娯楽を楽しませていただきましたが、ゼルダの伝説、レインコード、地雷グリコが特に印象に残ってます。の大傑作ですね。これだけの傑作を読むと、他の人の感想を読み漁りたくなるなるのが性分ですが、感想といえばあの人を忘れてはいけません。
ピエ郎さんのレビュー動画がくるか賭けません?
賭けになんねーだろ。レビューが来るしかねぇ雰囲気だ。
もうちっとだけ続くんじゃ
インタビュー記事(2023/12/25追記)
作者の青崎有吾先生へのインタビュー記事が公開されてます。
本作品のインスパイア元などにも踏み込んだ内容になっており、インタビュー中に『嘘喰い』という単語が6箇所も出てきてます。つまりこちらのAmazonレビューの通りだったと言えるでしょう。
地雷グリコ読了後の方には必読の内容となっております。
続編への期待がますます高まるばかりですね。
トリプル受賞(2024/05/17追記)
地雷グリコ、ガチで勝ちに来てる……ッ!!!
🏆🏆🏆青崎有吾さん『地雷グリコ』が第37回山本周五郎賞を受賞しました🎉
本格ミステリ大賞
日本推理作家協会賞に続き
1週間でトリプル受賞の快挙です青崎さんおめでとうございます pic.twitter.com/8fXD1hE7Ni
— KADOKAWA文芸編集部 (@kadokawashoseki) May 16, 2024
地雷グリコで三冠を獲って絶好調の青崎さんに受賞当日(担当さん経由で)お祝いを伝えたら、「今日私に勝てる奴はこの地球上に存在しないよ」と鷹さんのセリフで返されたことを共有しておきますね
— 織守きょうや (@origamikyoya) May 17, 2024
記者会見にて続編についても触れられていたので、今後が楽しみですね。
たった一週間での受賞3つに驚いてたら、いつの間にかさらに増えてました。
『#地雷グリコ』(KADOKAWA)で文学賞4冠を達成!!
👑第24回本格ミステリ大賞〈小説部門〉
👑第77回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉
👑第37回山本周五郎賞
👑2023年SRの会ミステリーベスト10 【国内部門】第1位… pic.twitter.com/kBKHPua3x6— 東京創元社 (@tokyosogensha) May 17, 2024
ここから年末にかけて合計いくつ受賞するか賭けません?
この勢いでノーベル文学賞も獲ってください!
脚注
↑A | 先生のツイートを『嘘喰い』で検索すると、”作家デビューするための1番の近道は『嘘喰い』を読むこと”だとか”編集さんとあっても嘘喰いの話しかしてない”とか”存在しない妄想回で映画続編を要望する”といった話題が満載なので、少なくとも全世界でもっとも『嘘喰い』という単語をつぶやいてる作家さんではないでしょうか。 |
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↑B | ニンテンドースイッチで発売中の、ダンガンロンパスタッフによる新作推理アドベンチャーゲーム。ミステリ好きなら絶対に遊ぶべき必修科目といって良いでしょう。 |
↑C | 今年も色々と面白い娯楽を楽しませていただきましたが、ゼルダの伝説、レインコード、地雷グリコが特に印象に残ってます。 |
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