みなの願うもの
欲したまえ、さすればかなえられん。
司会のK井K一が叫ぶ中、クイズ参加者は負けじと思いのたけを叫ぶ。
「志望大学に合格できますように!」
「とりあえず100億円」
「女房と別れて愛人と暮らせますように」
「日本でも市民が拳銃を持てるようにしてください」
「やせたい! やせたいのっ!」
「お隣の奥さんを殺してください」
「タイガーズは9アウト交代にしてくれ」
「息子をいじめた連中の公開処刑を望みます」
「外国産ワインの輸入を禁止してほしい」
「うちのギルがいなくなっちゃったんです。探してください……」
「いつになったら九州新幹線はできるんだ?」
「アダルトビデオのモザイクを消せ!」
「エッフェル塔がほしい」
あまたの欲望が溢れ返る中、僕の欲することは。
「廃刊になった国民クイズを復刻してほしい!!」
太田出版がかなえてくれました。
読むべきか、読まざるべきか
なお講談社版だと全4巻ですが、かなり入手困難かと思います。
内容に若干違いはあるものの、太田出版版でも問題ないですし、電子書籍にもなっているので入手もしやすいかと思います。
だからこそ今、あらためて紹介しましょう。
この本は読む人間を選びます。だからその前に、僕が貴方を選ぶ事にしましょう。
貴方は、以下のようなCMが流れるNHKがあったとしたら、毎日この番組を見ますか? もし見れないと思ったら、引き返しましょう。
ほう、ここまで読んでいるとは貴方もなかなかですね。
しかし、あともう一つだけ。六面ダイスを振って下さい。貴方の頭の中で。幾つですか?
0なら合格です。先に進んで下さい。そうでない貴方は残念ですが牢獄行きです。
世紀の怪作を、あなたへ
漫画の歴史に残る(もちろん裏の)、世紀の怪作といえるでしょう。
近未来の日本。資本主義は崩れ、どん底と化していた。その日本を救った政治体制、それが、”国民クイズ”体制である。
人々の行き着く当てのない欲望を操る為に考案、実施されている非常にヤバく、異様な人気の国営テレビ番組。
なにせ、クイズに合格すれば、文字どおり何でも願いがかなう。大勢の人間が毎晩出場する。そして脱落し、戦犯扱いされ、財産を没収されてゆく。しかし出場者は減らない。決して。
その司会を務める「K井K一」という国民的なカリスマを持つ男。百人の政治家以上に国を動かす力を有する彼をめぐり、様々な権力や思惑が絡み合い、日本の未来が暴走して行く……
このストーリー要約を読む限りでは、かなり目茶苦茶な代物と思われる人が多いでしょう。ある意味、そうです。目茶苦茶で破天荒。
しかし今の漫画が失いつつあるパワーが、ここにあります。異様なまでの熱狂が、ここにあります。一見バカバカしい設定の裏には、まれにみる完成度の高さが土台となり、希有なブラックジョークとして、この作品を成立させています。
表紙の絵でひく人もおられるでしょう。しかし、この独特の絵が、作品に非常に調和しています。話ごとの表紙も世界的に有名な絵画のパロディや示唆に満ちたものばかりで、絵的な演出的の魅力にも溢れています。原作が持つブラックなパワーを、見事に開放しているのではないでしょうか。
それでも躊躇している貴方へ。
自信を持って言えます。こんな凄い漫画を見逃しているのは、もったいない。
せっかく人間として生まれたんです。恐怖やブラックジョークを娯楽と楽しめる、貴重な存在ですよ? しかも、日本人に、ですよ?
日本語を読める幸せというものを、僕はこの作品を読んで感じます。
そんな歪んだ幸せを、貴方にも。
2023年追記:復刻版が発売ッ!!
今年あらたに復刊されたとのことで紙版を購入してみましたが、想像以上に大きかったです。
AKIRA単行本と同じサイズとは聞いてましたが、実際に手に取ると大きいっ!
デカァァァァァいッ説明不要!!
ただでさえとんでもない熱量をもった作品の作画が、さらにとんでもない迫力を帯びています。
2001年の復刻版+作者追記(3ページ中、半分くらいが2023年の追記)といった内容なので、2001年復刻版の電子書籍を持ってる人は、追記部分以外は中身がほぼそのままと思っていただければいいです。
とはいえ2023年追記部分は1.5ページと量的には多くないものの、往年のファンからすると必読の濃さです。打ち切りで使えなかったエピソードやCMの記載もあって、あたかも国民クイズの新作が読めたような気分になりました。
この内容、また加藤伸吉氏の作画で読みたいですね。
この復刊をきっかけに、『死神様にお願いをRe』みたいな劇的な復活を遂げてほしいものです。
2025年追記:実写化が決定!!
欲したまえ、さすればかなえられん。
誰かが国民クイズに参加して希望賞品「国民クイズをNetflixで実写化してほしい!!」を勝ち取ったのでしょうか。
日本政府「国民クイズ省」より
【重 要 な お 知 ら せ】です。ディストピア漫画『#国民クイズ』が実写化決定‼︎
司会(K井K一)は #山田孝之 でお送りいたします‼︎▼Netflixhttps://t.co/91wDsYF28V
▼原作コミック特設https://t.co/eVARQfYGRq#Quiztopia #Netflix pic.twitter.com/4c2UxacPud
— 太田出版なかのひと (@OHTABOOKS_PR) January 28, 2025
虚構新聞ではなかろうかと何度も見返しましたが、本当のようです。
「国民クイズ」Netflixシリーズとして実写化 – コミックナタリー
リンク先の記事での原作者のコメントがイカしてますね。
杉元伶一(原作)コメント
「国民クイズ」の映像化を企画した冒険主義的なプロデューサーは過去にも何人かいました。しかし、いずれも断念、撤退、消散しています。途中で正気に返ったんでしょうね。原作マンガを読んだ人なら分かると思いますが、実写化なんてどだい無謀な話なんです。
今回、Netflixさんは本気でドラマにするそうです。原作サイドは未だ半信半疑ですが、その意気やよし、面白い作品になる事を期待しています。勇気があるよなあ。
監督のコメントが実に「分かってる」感じで、期待が高まるばかりです。
吉田照幸(監督)コメント
クイズで支配された近未来の日本……流行りのゲームサバイバルのような物語なら断ろうと本をめくると、40年前だけど、現代の病巣をえぐる物語が展開されていました。エッジの効いた内容になぜか?やる気になりました。時代設定がかなり違いますので原作通りとはいきませんが、その精神やエッセンスを大切にNetflix版ならではの「国民クイズ」を作ります。山田さんはじめ素晴らしいキャスト、スタッフが集まりました。ご期待ください!
主演の方には2020年にオファーが来てたみたいで、4年くらいひっそりと進行中だったみたいですね。
Netflix配信開始の日は「国民クイズの日」、もはや祝日と言っても過言でありませんから、有給取得して一気に見てしまおうかと考えております。
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