死体の一人称による文章、という奇抜な『夏と花火と私の死体』という作品でデビューした乙一氏による鋭い切れ味の衝撃作。
彼が「せつなさの作家」というキャッチコピーを付けられているというのは知っているのですが、自分が読んでいるのはどうもそちらとは反対側の作品のみのようです。未だにそのイメージが結びつきません。
本作は広義の推理小説短編集の体裁がとられていて、そういった技巧がそこらかしこにちりばめてあります。腐った小説読みの自分は、馬券で行ったら全ての馬に賭けるようなつまらない読み方をしたせいでトリック自体は読んでるうちに全て判明してしまいましたが、そんなことは全然問題ではないのです。トリックは味付けの一つにすぎませんし、そんなことで魅力が失われる作品でありませんから。
陰惨な事件を解決するどころか警察に報告もしないような一種の冷酷さを持ち合わせていて、普通に考えたら感情移入しにくいような登場人物らだというのに、どうしてこうも魅力的なのでしょうか。クールな雰囲気の中にも、何度も読み返してしまいたくなるようないいシーンがあったりして、この時になって初めて、「せつなさの作家」という呼称が少し結びついたような気がしました。
余談ですが、「本物のフリークスが出演していて、みこしみたいなのをかつぐ変な話で、ドイツの女性作品」なる映画が何なのか、未だに分かりません。どう検索すれば探し出せるかな。
コメント