予告編すら見てないで、「主人公の怪演が見もの」という情報以外を知らずに、映画の日に代休とって昼間から見てきました。平日の昼間だというのに、そこそこ人が入っていて、わざわざこんな映画を見に来るような人たちだからなのか、みんなマナーがよくて集中して最後まで意識を途切らせることなく気分よく鑑賞できました(まぁこの作品自体が気分がいいものかは置いといて)。
冒頭のロサンゼルスの夜の風景をただ流しているだけのシーンを見ているだけで、これは傑作に違いない、と確信してしまいました。あまりにも美しく、それでいて怪しい。その雰囲気から『ドライブ』を連想しましたが、これはこれで違った持ち味があって魅力的ですね。
過激なパパラッチを扱った映画、というだけあって、決して万人受けするような作品じゃないんですが、アカデミー賞の脚本賞にノミネートされてただけあって、話がよく出来てます。といってもひねりがある展開といった類ではなく、細部がよく描かれていて、演出なども地味ながら見事な内容になっている、といった印象ですね。派手さはないんだけど、見入ってしまう。
今回一番の目的だった怪演っぷりですが、何をしでかすかわからないぞコイツ、といった危うさを持ってたり、奇行にばかり走るようなタイプではないものの、静かな狂気を纏っているような印象があってよかったです。
第一印象は少し目つきがギョロッとしてるかな、くらいで明らかに頭がおかしい感じではないんですが、話しているとだんだんとコイツおかしいぞ、という気分にさせてくれる感じですね。猛獣的な怖さではなく、細菌的な怖さとでもいおうか、不気味さがあります。
以下はネタばれこみでの詳しい感想になるため、鑑賞後の閲覧を推奨します。
最初は悪趣味なパパラッチのデバガメ映画なだけかと思ってたんですが、そうでもなかったですね。たまに人生哲学的なやりとりも出てきて、考えさせられる部分もあります。お前は人間を分かっていない、というシーンのやりとりは色々と凄い。
勧善懲悪な話にはせず、むしろ主人公のサクセスストーリーとしても見れるあたり、見事です。冷静に考えたらあれだけ共感を持てない主人公なのに、完全に拒否できずに見入ってしまうのはなぜなのか。
確かにいろいろ悪趣味だったりするんですが、主人公の中では筋が通っていて、彼の中では矛盾した行動をとったりするわけでないので、無差別に何をするかわからないといった奇異さはなかったです(でもまぁ十分異常でしたけれど)。色々と勉強して、理屈っぽく押しが強く、極度なまでの自己肯定のまま、相手との交渉に挑む姿は、自分にはない部分だな、と思ってしまいました。
つまりはあくまで倫理観が欠如していているだけで、実は努力家で目的に向かって最速解を選びつづけ、成功を掴み続けているわけです。植物に水をやるたびに、自分自身も装備が高まり、成長していく。方法はともかく、自分はそういう努力をしているのか。そう自問自答しながら鑑賞していると、主人公のその姿が、眩しく、羨ましく、見えてしまうのかもしれません。
色々と犯罪行為に手を染めつつ、主人公は直接的には人を殺したりしません。それでも倫理観を欠いた異常性を持っているわけではあるんですが、その一方でキャスター達と冗談を言い合えるくらいには社交性があったりします。人を殺すような異常性を持たなくても、サイコパス足りうるんだな、とあらためて思い知らされました。
そう思うと、ラストで他の同業者がやっていたように事業を成功させてしまった様子が、色々と恐ろしい。まさに現実のブラック企業社長の姿じゃないですか。一見は普通の人に見えるのに、いざとなれば社員を脅したり、理由をつけて残業代を払ったりせず、モラルを超えた成功のためだけの取捨選択を行って、現実にはなかなか裁かれることはない。現実にそういう経営者を見てきたので、それに比べると主人公のほうがまだ好感もててしまうという現実の恐ろしさたるや。
いろいろと印象に残るシーンは多いですが、一番凄いと思ったのはラスト間際で、女ディレクターが主人公に「こんなものを持ってきて、どう言えばいいのか戸惑っている」みたいなことを言ってるシーンですね。
最初はさすが女ディレクターもドン引きしたのかと思ってたら、その直後に主人公を賞賛しはじめて、それを聞いてる主人公も満更でもない表情になっていて、見てるこちらとしてはもう唖然とするしかない。
主人公と女ディレクターが化学反応をおこして、人として明らかに間違っているレベルアップをしてしまったと分かる間、その背景ではずっと元助手が恨めしそうな顔をしてこっちを見ているという。血や内蔵を出さなくても、残酷なシーンは作れるんだという見本のような名場面ではないでしょうか。
主役の俳優さんが、実は『プリズナーズ』『複製された男』にも出演していた、と全く分かりませんでした。というかそう言われた今でも、いまだに別人にしか思えないくらいですし。それくらい役に対する入れ込みようが尋常ではなかったと思います。
万人受けする内容ではありませんが、凄い映画だと思いますので少しでも興味があったら鑑賞されてみてはいかがでしょうか。
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