事前情報がほぼ無いまま、これがミステリーなのかすら知らないで読んでいたので、まさか叙述トリックだとは思いませんでした。読了後に唖然としてググってみたら、やはりいつもお馴染みのSAKATAMさんが
詳しい解説を書かれていました。いつもお世話になりますです。
似たような仕掛けの作品は幾つか読んできたつもりですが、それでも最終章手前の一文の破壊力が素晴らしかったですね。他には登場人物が殺された時に途中で文が終わってしまうところも、見た目的なインパクトだけでなく、構造的に意味がある点(語っている人物が居なくなるため、フェードアウトする)もありそうで無かった仕掛けではないでしょうか。
都市伝説の異形の特徴を、大胆に叙述トリックに利用した点が見事ですね。そのためにわざわざ章は右から始めて、最初に必ず「電気人間」という単語を登場させて作中ルールを順守しているので、文庫版でもうまく調整しているのかな、と確かめてみたくなりました。
こういう風にページをめくった時の文章の位置を丁寧に制御している文章作品は、Kindleにはあまり向いてないのかもしれませんね。Kindleは文字の大きさや行間をかなり自由に変えられるので、読書するための装置としてはかなり優秀で気に入ってるんですが、逆に言えば作者側で制御するのが実質不可能に近いといえるわけです。
章の最初のしかけはKindleでも改ページで制御できたとして、最終章手前のページをめくった時の一行が飛び込んできた時のあの衝撃は、難しいんじゃないでしょうか。とはいえ、無理やり改ページさせていれば、その前のページが妙に空白になってしまうけど、あの一文が飛び込んでくる効果は得られるかもしれませんが、単行本での調整には敵わない気がします。紙媒体にも「作者の思惑以外の文字数には変更できない」という逆説的なメリットがあるんだなぁ、と再認識した次第です。
読み終えるまでは題名の最後の漢字は「虜(とりこ)」だと誤解してたんですが、よくよく見てみると「虞(おそれ)」ですね。読了後だと、その言葉の意味の二重性に気づくような作りになっているのもうまいと思いました。
それにしても、最後の蛇足とも言える二行の存在は驚きました(悪い意味で)。逆に言えば、たった二行だけで評価落とさせるのも凄まじい気がしますが、あの二行は無くして欲しかったですね。余韻が台無し。まぁ笑いましたけど。声を出して。たぶんS先生のブラックなアレに対するオマージュなんですかね。
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