2004年4月、一人の怪奇実話作家が「呪い」をテーマにしたドキュメンタリーの最新作を完成させた直後、謎の失踪を遂げた。作家の自宅は全焼し、焼け跡からは妻の遺体が。そして「ノロイ」と名づけられた作品は、そのあまりに衝撃的な内容ゆえ発売が見送られ、小林が生前に編集した映像をもとに一部の実名を出すことに問題のある人物が登場する箇所については撮影をやり直すなどして製作されたのが、この映画なのである。
ビデオ作品用に編集されたVTRをもとに、ドキュメンタリータッチで淡々と取材を続けていますが、次々と場面が切り替わるので淡々としている割にはテンポが良く感じられました。元はビデオ作品用に録画したためか画像が荒くなっているものの、それが奇妙な味を出しているような気がします。とは言え、ハンディカムでの撮影シーンでは手ブレが凄いことになってますので、3Dゲームなどで酔う人は体調を万全にして見に行った方がいいでしょう。
未見の人で興味を持った方は、ネットで余計な検索とかせず、これ以上の情報は目にせず、公式サイトや小林雅文公式ホームページや小林雅文ファンサイトなどといったものはほとんど見ないで、すぐさま劇場に行くのをお勧めします。
以下は完全ネタバレ感想ですので、ご注意を。
本当に失踪してしまった製作者の残した実際のテープを元にして作成された、という部分をどこまで信じて見に行くかでまず評価は分かれるんじゃないかと思います。言ってしまえば『ブレアウィッチ・プレジェクト』の日本語版と言ってもいいわけでして、アレが無ければ評価はもっと高くなるだろうな、と感じました。まぁアレが無いとこんな形式で売り出そうとは思わなかったでしょうけれど。
俺は作家さんとか役者さんとかほとんど知らない人なので、作中の登場人物に関しては完全にフラットな状態で見れたのでラッキーでしたね。くわえて事前情報は必要最小限しかみないという性格が幸いして、この映画がフェイクなのかどうかを完全には断言できない状態で映画館に入れたのもラッキーでした。
ネットで少し調べれば、ドメイン取得時の住所とか、Amazonで失踪した作家の本が一冊も買えないとか、原作本が杉書房ではなく角川文庫だったり、作家のブログがサービス開始前から始まっていたり、といった綻びが見えてしまって鑑賞前から萎えてしまうのはいたしかたないかもしれません。あとから気づいたんですが、劇場でグッズを販売してたのも逆効果でしかないと感じました。本当にヤバいのならグッズとか出さないでしょうし。大きめでメジャーな映画館で上映せず、マイナーっぽい映画だけ上映するようなところだけに限定して、飢餓感を煽るとか、もう少しこのあたりを徹底して、実話なら実話として押し通すくらいした方が良かったかな、と思いました。
結果論ではありますが、宣伝を逆にしてみても面白かったんじゃないかと思います。これは実話だというのをまるで前面に出さず、気づいた人だけ実話なのかと疑心暗鬼にかられるような形に持っていき、映画公開が終わったあと辺りからじわじわとネットで噂になり、レンタルで話題沸騰、みたいな。そのためには前述したような宣伝方向の徹底化が必要だとは思います。でも映画には予算あるしね……とか夢の無いこと言っちゃダメですか。
俺は勝手に実話の可能性もあるんじゃ?と実に都合のいい方向に補正しつつ鑑賞できたので、かなり怖い思いが出来て幸せでした。ちょっとチープかな?とCGを見て思ったとしても、首吊り自殺の死体がきれい過ぎるとか思ったとしても、「いや、これは元のテープの再現画像かもしれないし」とか本気で補正しにかかりましたから、あの時の俺は賞賛に値すると思います(怖がる、という方向性において)。おかげさまで帰り道にチワワがわんわんないてるだけで本気でビビリはいってましたし、帰宅してネットで調べて「ああ、実話じゃなかったんだ」と思うまで安心できませんでした。我ながらいいビビり具合でしたが、貴重な体験が出来て良かったです。
実話うんぬん抜きにひとつの映画としてみるとどうかと言うと、俺は面白く楽しめました。まみりん的には一部演技が下手な人間がいたということでしたが、俺はお得意の脳内補完してたんで大丈夫でした。と言っても皆さん演技が良くないってわけでもなく、準主役の女性アイドル、松本まりかさんの演技とかは今後の出演的に大丈夫なの?って心配になるくらい鬼気迫ってましたし、アンガールズの登場シーンもいい意味で浮いてて良かった。
日本の山奥の荒んだ田舎の雰囲気とか良く出てたし、怪しい儀式やお面、無表情な子供たちなど、普通のホラー映画として売った方が評判下がらなかったんじゃないかな、って要素も多いですね。個人的に一番グッときたのは、インタビュー途中で女霊能者の過去を質問した瞬間、無言で立ち上がって去っていくおばさんのシーン。ハリウッドみたいな派手な音響とか惨殺死体とか出さなくても、日本映画はこういう風に不気味さを演出できるんだ、って実感した瞬間でした。
実話方向に強化するのであれば、もっとカメラワークを下手くそにしたりしても良かった気がします。特にラストの火事の場面は、カメラが横倒しになったままほとんど場面が見えないで声だけで進行する、くらいしても良かったかも。あとCGで幽霊をまるで見せずに終盤の”子供の顔”のところまで持っていくとか、死体はモザイクにするとか、インタビューはもっと何言ってるか分からなくして字幕入れるとか、そういうところがあるとなお良かったかな、と思います。
そんなこんなで冒頭の文章で意図的に嘘を書いてますが、悩んだ挙句にそのまま押し通すことにしました。こういう楽しみってあまり無いと思いますし、無粋なことをするよりは嘘書いた方がまだましだろう、って思いますし。皆さんも知人に真顔で「あれ、マジでヤバイって! 本当にあったらしいって!」と共犯者になってみてはどうでしょうか。
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