まみりんはここしばらく無職を満喫し、いつも昼過ぎまで寝てて、目がさめてもすぐには布団から出てこずに、ゆきみたいに顎を枕につけてだらーっとしてたのです。
しかし最近のまみりんは一味違いました。職業訓練校の入学テストが迫ってきたので、対策用に数学の問題集を買ってきて、毎日一生懸命問題を解いているのです。どれどれまみりん、勉強は進んでるかい?
「ダーリン、二乗ってなぁに?」
えーと。確かまみりんは短大出てたんだよね。やっぱエスカレーター式って(検閲)
「まみりん、二乗ってのは同じ数を二回かけることだよ」
「果物で説明して」
「えーと、みかんが三個あって、三個のグループが三つあったら……」
「みかんだと皮をむいたら数が増えちゃうからりんごで説明して」
「えーと、りんごが三個、三グループあったら、全部で九個でしょ?」
「りんごが九個あるのは分かるんだけど、なんでりんご三個とグループ三個をかけるの? りんごはりんご、グループはグループでしょ?」
「いや、だから二乗の説明のために無理矢理りんごで説明してるんであって……」
「方法としては分かるんだけど、なんか納得いかない」
「理屈じゃなくて、脊髄反射で機械的に計算してればいいの!」
「いやだー! 納得いかなーい!」
※画像はイメージです。
そんなこんなで俺のなんちゃって家庭教師が毎日続いていたのですが、ある日まみりんがぼそっと言うのです。
「ダーリン、わたしが数学苦手とか日記で書いたりしないよね?」
「書かないってば」
「本当に? 絶対?」
「恥ずかしいから書かないって」
と俺が言った瞬間、こたつに向かってたまみりんは鉛筆と問題集を放り投げ、畳にねっころがって手足をバタバタさせながら訴えてきました。
「誰がどう恥ずかしいんよ〜?! 誰がどう恥ずかしいんよーっ?!」
その姿を見た瞬間、俺の中のネタゲージが恥ずかしいゲージを上回ったのでこうやって結局は日記に書いてるわけですが。なんというか、この時のまみりんの姿を動画に撮ってなかったのが悔やまれる。
万事がこんな調子でテスト前日になってしまったのですが、「まぁ、人生、テストが全てじゃないよね」と達観した気分でまみりんにはテストを受けてきてもらったところ、まぁまぁの出来で微妙な線らしくてあんま自信がないみたい。まぁこれから失業保険のお金が入るから、なるようになるか。
と思ってたらその翌日に派遣会社から連絡があって、まみりんが面接受けに行ったら即日採用決定しました。一体今までの俺の努力は一体……まぁ、仕事決まるために数学やってたんだから、結果オーライでいいか。でもまぁ自分がどのくらい役に立ったのか確かめたくて、ついつい質問してしまうのでした。
「まみりん、0割る2は?」
「マイナス2でしょ?」
「……!!」
冗談かと思ってたんですが、ニコニコしながら自信ありそうな表情です。おそるおそる聞いてみました。
「な、なんで……? りんごが無かったら人に分けることもできないでしょ?」
「りんごが無いと割れないから、りんごを二個用意しないといけないでしょ? だからマイナス2になるの」
えーと。まぁ、人生、テストが全てじゃないよね。よね?
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