ミスター・ガラス(公式サイト)
これはとてつもない作品でした。今年が始まって間もないのに、これを超える作品に出会えるのかと思ってしまうレベルの面白さでした。
三部作の締めくくりという位置づけにあるため、できれば『アンブレイカブル』『スプリット』と鑑賞した上で『ミスター・ガラス』を見たほうが無難だと思います。
『ミスター・ガラス』は単体で見ても面白い作品ではありますが、続けて見て本作を三作目として見た方が感慨深さがかなり変わってくるかと思います。1月末には全国の殆どで上映が終わってしまうとあり、今から二作見てからというのもハードルが高いとは思います。しかし、そこまでしてでも見る価値がある傑作です。
予告編で興味が出たのですが、軽く調べたら三作目らしいということで、前二作を鑑賞してみたんですが、これらも自分好みの作品だったため、本作も見ることにしました。
といいますか、予告編だけ見ていたときと、二作を見た後だと期待値が全く違います。あの三人が集結するなんて、どうなるのかさっぱり分からないぞ、というワクワク感が凄かったですし、実際に見た作品はこちらの期待を遥かに超えた面白さでした。
レイトショーで22時以降に始まったので、24時半に終わるスケジュールだったのですが、そんな時間まで起きてられるんだろうかという不安があったものの、実際に見始めたら最初からかなり起伏のあるストーリー展開で、気がついたら終わっていた、という理想的な映画体験になりました。
しょっぱなからジェームズ・マカヴォイが演じる多重人格のキャラが強烈な印象でしたね。初登場時に天井から多くの人間がぶら下がっているように見える演出で掴みがバッチリだし、前作でも凄いと思っていた多重人格の縁起も、今回はかなり短いスパンで人格が切り替わって、傍から見ても中身が変わったと分かるレベルで素晴らしかったです。
そしてやはり、ビーストへ変貌する時の異様な迫力が圧巻でした。筋肉の隆起だけで別の人格になったと分かる演出、24人分の歯ブラシ、スタッフロールに並ぶJames McAvoy、James McAvoy、James McAvoy。
本作の主人公ともいえるミスター・ガラスが序盤から静かなのも、逆に深遠なものを感じました。そして中盤でビーストと手を組んだ後、ビーストが戦う様子を車椅子の上で見つつ、片手を顎に添える仕草が印象に残りました。あれだけの所作で、ヴィランとしての佇まいが表現できるなんて……
様々な伏線を秀逸にしこみ、回収していくシナリオの手腕も見事でした。「どうして俺たちだけなんだ」という悲痛にも聞こえる叫びに、あんな意味が込められていたとは。三つ葉のマークの組織が、四つ葉である超人たちを間引きしていく異質さ、おぞましさ。店を貸し切って足がつくのを防ぐやり方も奇妙ですし、ヴィランはおろかヒーローでさえ粛清対象にする徹底さときたら。
むしろ粛清というよりは、本人たちは枝を剪定して人類を育てている、という善行をしているつもりなのかもしれません。しかしながら手を握って思考が読み取られたので、他者からは悪者という認識になっているという構造も皮肉でした。最初はただの会食シーンに見えて、たった一つのセリフで場の雰囲気を変える演出が白眉でしたね。とはいえ、精神科医のステイプルの中では葛藤があるように思えました。射殺シーンのあと、車を背にして少しうなだれた彼女の表情は、複雑なものを感じます。
ミスターガラスが母親に「これはリミテッド・エディションではなくオリジン・ストーリーなんだ」と言っているシーンを最初見た時は、違和感を覚えました。オリジンとは「起源」「原点」という意味で、アメコミ用語としては、ヒーローやヴィランが誕生した経緯のことを指すわけでして、みんな全滅して何も始まりようがないのではと思ったんですが、ここがラストシーンに活きてくるわけですね。ほんと伏線が巧みすぎます。
普通のハリウッド映画だったら、ここでオオサカタワーで決戦となるところですが、敢えてあの病院だけで戦った、というのも意味深でしたね。ストーリー上の必然性もありましたが、シャマラン監督のメッセージ性を感じるのは自分だけでしょうか。
第一作の時点でまさかここまで考えてたんだろうかと思い、あらためてパッケージをみると、どれにも必ずガラスが割れた後が入っているので、おそらくずっとずっと考えていたんだろうと確信めいた気持ちでいます。今思えば二作目の老婆の先生が「私が死んでも後任が居るから」と言ってたのはおそらく三作目のステイプルのことでしょうし、再鑑賞すると他にも色々な仕込みに気づきそうな予感がします。
一週間で三作続けて見たので、見終えたあとの充実感が素晴らしかったです。物語の舞台は一都市とミニマムなのですが、普遍性があって壮大なサーガを見た心境ですね。
アメコミのヒーローが日本でも浸透してきたといえるこの時期に、シャラマン監督が突きつける本作の意味は、見る人の感性を揺さぶってくるのではないでしょうか。これは映画好きな人々に是非見てもらいたい作品です。
コメント