球体の蛇

道尾秀介氏といえば、どんでん返しのミステリー作品を書かれる方として有名だと思います。とは言え新本格派のようにトリック最優先というわけでなく、人間描写をしっかり行いつつもミステリーとしての驚きを追求されていたように感じました。
今回の作品は今までと毛色が違いました。新境地と言ってもいいでしょう。驚愕の展開のミステリーというわけではなく、賞が狙えそうな純文学的になったとような感じでしょうか。いえ、文学的というよりも、ミステリーとしての驚きと、人間描写の比重が今までと逆になったような感触です。
ミステリーとしての大掛かりな仕掛けはないのですが、物語の先を読みたくなるようにミステリー的な伏線は用意されています。ただ、それらが物語の最後で明かされて驚かされるのではなく、要所要所で真実が明かされて、登場人物の心に影響を与えていくのです。
展開に派手さは無く、終始明るい雰囲気も無く（導入の時点でそれは十分予見される事ではありますが）、心を揺さぶるようなミステリー的驚きも無いのですが、大変面白く読ませていただきました。
描写がしつこく長く続くわけでもなく、割と短めに読みやすく表現されているのに、人物描写がしっかしていいて、しみじみと味わい深く。読み終えた後はじんわりとくる。今までの作風とは違うのですが、とても気に入りました。
余談ですが、作中で出てくる「ウワバミ」の絵がネット上で公開されてました。読了した後、この絵を見て、タイトルの意味を考えるのも面白いと思います。
どんでん返しとかを期待せずにフラットな気分で手に取る事をオススメします。