「アレはヤバい」
「生活がアレ中心になる」
「やるとやめられなくなる」
「かっぱえびせん」
といった感じでこのゲームを熱っぽく語る彼らの表情を見て、決して手を触れてはいけないと思ってました。
俺なんか間違いなくイチコロです、間違いなく。自分の自制の無さは良く分かってます。
だから酒や煙草や賭け事、麻薬には手を出しません。修論直前にバイオ2を4シナリオ全てクリアしたりしてM教授の顔色をブルーに染めたりしていません。
そんなある日、部室でくつろいでいるとハマー(そのうちコイツについても書きます。合い言葉は塩スパ)なる男がニコニコしながら捲し立てます。
「先輩、シレンが2000円で新品で売ってたよぉ〜! ダイエーで、安いですよぉ〜! お買い得ですよぉ〜!」
1000回遊べるゲームが2000円、って事は一回2円ですよ? 50回プレイしないと缶ジュースも買えやしません。
でも……今ハマルとヤバイなぁ……だって今は修論を控えた10月です。
ゲームをのんびりやってる暇はない筈です。
そして葛藤のあまり俺悪魔と俺天使が降臨し(中略)買ってきました。
シレンって、チュンソフト製の割に意外に知名度が低いですが、知ってる人は知ってます。そしてやたら熱く語りたがります。
ゲームの特徴としては、アイテムがランダム、マップもランダム、敵もランダム。それゆえにずっと楽しめます。1000回楽しめるRPGとありますが、全く誇張ではないです。
で、購入したが運の尽き、やっぱりはまりました、俺。昼も夜も無く、無節操に。学校かバイトか食事してるか寝てるかシレンか。そんな感じだったので自然とまみりんの事はほっときました。ほんでやっぱり怒られました。
「こんなゲームのどこがいいのよ!」
そう言ってパッドを握るまみりん。
そしてそのまま5時間経過。
ミイラ取りがミイラになる、とは良く言ったものです。
それから熱い戦いが始まりました。当然俺とシレンではなく、シレンを巡る俺とまみりんの、です。もう一本買えていれば問題なかったんですが、既に売り切れ。そんな訳で一個のカセットを巡ってしのぎあいます。
俺が急いで学校から帰って来ると、何故かドアが開いていて、何故かまみりんが俺の部屋にいて、何故かパッドを握っていたりしたのも数え切れません。でもそんな日々は結構あっさり終わりました。とあるダンジョンが難しくて、まみりんが投げ出したからです。
そんなわけで俺だけがシレンをする日々が続きます。それはもうあっさり睡眠不足の日々。ほんでやっぱりまみりんをほっときます。
ほんで案の定まみりん、キレました。
「私とシレン、どっちが大事なのよ?!」
シレン!
……と言えるほど俺も根性が無かった、って事ですかね。
シレンはもうしないと誓い、血の涙を流しながらカセットを棚の奥深くにしまいこみました。
「最終問題、もう少しでクリアできそうなのに……」とか小声で呟きましたが、睨まれたので小動物のように震えました。
そんな、ある夜。一人で寝ていると、なにか物音がするので目が覚めました。なんか、奇妙な音楽が鳴っているような……
メガネが無いと、裸眼0.01以下の俺には何も見えません。でも、何となく分かりました。
なんか人がいるみたいです。テレビもついてるみたいです。
その人、身動きせずにじっとテレビの方向を凝視してます。何となく緊張しているようだと分かります。
なんか考え込んでます。そしてしばらく考え込んで一人で頷くと、何かを手にしました。
そして……
ドドン、ドドン、ドドドドドン……太鼓が鳴りました。
俺には画面は見えません。見えはしません。でも……
「まみりん、盗みに失敗したようだね。ゲームオーバーの太鼓の音が良く聞こえるよ」
まみりん、驚いて振り向くと、必死に弁明を始めました。
まさか夜中に忍び込んでシレンして、ばれないとでも思ってたんでしょうか?
「違うの、コレは違うの!」
「何が?」
「コレは……仕方なかったの!」
「何が?」
「……ごめんちゃい」
その後、俺は最終ダンジョンの60階でワナに躓いてアイテム喪失して以来、シレンはやってません。
その後、まみりんが最終ダンジョンを99階までクリアしたからではないです、決して。
そして2002年、ドリームキャスト版シレンが発売されました。その後の嶽花家の惨状は、あなたが想像しているとおりかもしれません。
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