ファミコンは発売日に買った世代なので、けっこう沢山のゲームをプレイしたと思います。その中でも一番プレイ時間が長いのはドラクエ3ですね。
クリアした後も色々なキャラを育成すべく、ずーっとずーっとやりこんでました。発売してからニ年近くはプレイしてたと思います。はぐれメタルを毒針でプスッと刺したり、ドラゴラムで焼き払うのが夕食前の日課となっていました。晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、毎日毎日プレイしてました。
そんなある日。いつものようにプレイを重ねていると、段々と辺りが黒ずんできました。外を見やるとすっかり黒い雲で空が覆われてます。降ってくるかなぁと思った矢先、すぐに小雨が降り始め、それはすぐに雷雨となりました。
「こんな日くらい、ゲームやめとけば? 停電とかになったらどうするの?」と母が言いに来ましたが、それでもはぐれメタルを追いかけるのはやめられません。呆れて台所に戻る母の姿を見てもうすぐ夕食なんだな、きりのいいところでやめないとな、とは思うのですがはぐれメタルが愛おしくて愛おしくて(その経験値が)。
そして運命の時は訪れました。あたりに物凄い轟音が響き渡り、部屋が完全に真っ暗になってしまったのです。テレビも電灯も消えてしまい、台所の炎しか光が無い暗闇と化してしまったのです。慌ててると台所の奥から母が「どうせすぐに電気がつくんだから、慌てて動いて怪我とかしないようにね」と言うのでそのまましていると、その言葉のとおり、すぐに電灯がつきました。
部屋が明るくなって一安心したのもつかの間、思い出しました。今さっきまではぐれメタルとデートの真っ最中だったことに。つまりファミコンの電気はつけっぱなしだったことに。この当時のバッテリーバックアップソフトは、電源を切るときはリセットボタンを押しながらでないといけない時代だったのです。
おそる、おそる、ファミコンの電源をつけなおします。すると、あまり聞きなれない、しかしすぐに何の曲だか分かる音楽がなりました。そう、これは呪いにかかったときのテーマ。あまりにもそれは不吉なテーマでした。そしてその音楽と共に画面に映し出されていたメッセージは……
ぼうけんのしょ1はきえてしまいました▼
ほんの少し、心臓がとくんと大きくなったような気がしましたが、まだ安心です。こんなこともあろうかと、同じ冒険の書をコピーしていたのですから。タイトル画面を出そうと、Aボタンを押してみました。すると、またしてもあの音楽が。呪いのテーマが。そしてその音楽と共に画面に映し出されていたメッセージは……
ぼうけんのしょ2はきえてしまいました▼
今度は明らかに心臓が大きく動きました。思わず息を飲み込んでしまいます。でもね、こんなこともあろうかと、同じ冒険の書はもう一つコピーしていたのです。だから大丈夫なのです。大丈夫に決まっているのです。しかしこのとき、なぜだか昔のことを思い出していました。
そう、あれはドラクエ3発売日から十日後くらいの高校での事件。スポーツとか全くしてないのでひ弱な僕でしたが、一度だけ喧嘩をしたことがあるのです。県下の進学校で、真昼間から校内でとっくみあいの喧嘩ですから、すぐに先生達が駆けつけてきて止められました。そして竹刀を持った生活指導の先生に畳の上で正座されられて、その理由を聞かれたのですが答えませんでした。
どんなに聞いても口をつぐむ僕らを目にして先生は「まぁ青春のデリケートな部分が原因かもしれんから、これ以上はもう追究しない。今後はこういう喧嘩をしてしまう前に、話し合いでどうにかするようにな」と暖かく言ってくれるのでした。だから尚更、喧嘩の理由は言えやしません。
友達にドラクエ3のバラモスを倒した後の衝撃の展開をネタバレされたからだなんて……だって、だって、あれってロトシリーズ三部作で一番驚くところじゃないですか。それを、それを一日一時間ずつコツコツプレイしている人間にバラすだなんて、人間のすることじゃないと思う……
なんで今、あの時のことを思い出したんだろうか。理由は分かりません。理由なんて無いのでしょう。理由なんて人間が後から考えるものですから。ただ、あの時、Aボタンを押して次のメッセージを見ようとしたあの瞬間、悟ったんです。走馬灯ではなかったのか、と。
ぼうけんのしょ3はきえてしまいました▼
呪いのテーマがやけに空虚に聞こえました。僕が二年以上かけて発売日からプレイし続けていたデータは雷一つで全て消されてしまったのです。この時の心境なんて、言葉で表現できません。敢えて言うのなら、もう何も考えられなかった、といった感じでしょうか。
そうして画面を見て呆然としていると、台所から母が「ご飯できたわよ。早く食べなさい」と言うので、特に何も考えず台所に行き、夕食を食べ、そしてまたファミコンの前に戻ってきました。そう言えば電源をまだつけっぱなしでした。まだ先ほどのメッセージが出たままです。なんとなくAボタンを押すと、画面は切り替わって一行のメッセージが現れました。
ぼうけんのしょをつくる▼
ああ、そうか。全て消えてしまったから、冒険の書を作るしか出来ることが無いんだ。そっか、作ることしかできないのなら、作ってみようかな。じゃあ今度はどんな名前にしようかな……
あの時は若かったと思うのです。だからこそあのあとのレベル1からの再プレイも「うわ、スライムに倒されそうだよ! 新鮮だ!」と素直に楽しめたのかもしれません。そしてまたクリアして、経験値を稼ぎはじめたのかもしれません。でも若かっただけではなく、本当に面白くて好きだったから、すぐにプレイが再開できたのかな、とも思うのでした。
子供が出来たらドラクエ1・2・3は絶対にプレイさせるつもりです。親子で楽しめたらそれはとてもとても幸せことではないかと思うのです。
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