『殺し屋イチ』でかなり有名になった感のある山本英夫氏の新作。「殺し屋イチ」はかなり面白い作品なのですが、残酷描写が凄すぎたので万人にお勧めしにくい面もあったのは否めません(まぁ残酷描写もウリの一つだったし、それを否定しているわけではないです)。しかし本作はそういうこともないので素直に薦めやすいとは思いますが、そういう理屈抜きで本作は必読であり必薦の作品です。
とにかく雰囲気作りのうまさが際立っています。まだ事件らしい事件が起きていない冒頭部分から妙な緊張感があります。これから何かとんでもないことが待ち構えていそうな、嵐の前の静けさのような不気味な雰囲気がたまりません。じわりじわりと物語が進んでいき、それに劇的な変化が訪れる一巻の終盤ときたら! 何か薬物を摂取した時の眼球を通してみたかのような絵図の凄さときたら!
この作品を読んだあと、手の甲で片目を隠し、鏡を見たくなる貴方がそこにいるかもしれません。そこにある貴方が、貴方の知る貴方だという保証はいたしませんが。
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