渋くてキレがあって読みやすいSF活劇小説『サンティアゴ』の作者が書いたユートピアもの、となるとどういう代物なのか色々と想像して手にしたのですが、実際に読み終わってみると随分思い描いていたものと違う内容でした。
スピーディな文体ではなくじっくりと書かれた文体であり、流れるように事件が勃発したり色々なキャラが登場したりするわけではなく、両義性に満ちていて答えがすぐに導き出しにくい重い内容なのですが、なぜだかページを捲る手を止める術がない。SF的な要素は殆どないので、むしろSFと聞いただけで毛嫌いしているような方々に読んでもらいたい。そんな本。
ユートピアものといえば、やはりユートピアが滅びんでいってこそ、と言ったところがあると再認識しました。理想郷をただ眺めていたとしても面白くなりようがないし、それに何よりも、読者は(ほぼ例外なく)事件を読みたがっている。それが大なり小なりの違いはあっても。
そう考えるとやはり、ユートピアは手が届かなくてこそ、といったところに落ち着かざるをえないのでしょうか。手に届いた瞬間、その本質は瓦解してしまい、それは既にユートピアではない。
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