ヨハネスブルグに宇宙人が難民として隔離されている、と聞いて誰しもが最初にアパルトヘイトの事を思い浮かべるのではないでしょうか。南アフリカ共和国は強盗に会う可能性が150%といったとんでもない風評を受ける地域であり、ワールドカップ開催後の行方が違う意味で目が離せません。
そういう印象を裏付けるように、冒頭はドキュメンタリー風に地味に物語は進みます。インタビューで「エイリアンを隔離しろ!」と黒人男性が訴えているシーンといった極めて強烈な皮肉を含んだシーンもあって、荒唐無稽な設定であるはずなのに妙にリアリティを感じてしまいます。
そういった冒頭のシーンを見ているうちに、個人的にはアパルトヘイト以外の印象として、『イリーガル・エイリアン』と似た雰囲気があるのではないか、と感じるようになっていました。
見終わった結論からすると、ソウヤー氏の作品ほどぶっとんだ設定ではありませんでしたが、オリジナリティ溢れる力強い作品だったと思います。元になった要素一つ一つは過去の名作から拝借されていると思えなくも無いのですが(むしろこの時代でそうでないものが存在するわけもないですし)、切り口や構成の仕方でここまで新しい感覚の作品に仕上げているのが見事でした。
さすがに裁判はありませんでしたが、立ち退き勧告でサインを求めに行ってるシーンが面白かったです。とは言えソウヤー氏の作品とどうしても比較してしまい、事前に期待していたよりは意外な展開にはなりえなかったと感じてしまって、自分自身の鑑賞の仕方で勝手に損した気分です。
第9地区という場所にはもっと隠された秘密があるんじゃないかと期待してたんですが、生物実験のための隔離地域も兼ねているというのは割と普通に思えました。そこを地域の秘密として前面に押し出した方が効果的だった気もしますが、エイリアンよりも人間の欲望の方が恐ろしい、という演出としては十分良かったと思います。
人の良さそうな主人公が、良くも悪くも人間っぽさを持ち合わせていたのが印象的でした。明らかにコネで昇進したとしか思えない(わざわざ親がそうではないと強調しているシーンで苦笑い)、スーパーマンではない一市民でしかない等身大の主人公なので、慌てたり、悪態をついたり、臆病であったり、といったマイナス面があります。しかし心の奥底では家族への愛だけは揺らがない、だからこそ終盤の展開が活きてきたのでしょう。
前半のドキュメンタリー風な雰囲気で最後までいくのかと思ったら、まさかのアクション展開で驚きました。「誰も殺すなって言ったのに」と相棒エイリアンに引かれるぐらいの暴れっぷりを見てると、「そういえば『ロードオブザリング』の監督が製作協力してるみたいだけど、あの人って実は『ブレインデッド』を作った人でもあるんだよね」と心の声が囁いてきました。
同じ監督の作品を並べてるだけなのに、この違和感はいったい。
あの破天荒ぶりに比べれば、これくらいはまだマシな方なのかも知れません。ギリギリ笑いを誘わないレベルでのB級アクションというか、そんな感じで物語は紆余曲折して思いもよらぬ方向に進むので、最終的に物語をどのように着地させるのかと気になってたんですが、予想以上にキレイな着地で感心しました。冒頭のインタビューが、うまい伏線になってたのだなぁと。
続編が出るとしたら、やはり第10地区になるんでしょうか。あの続きは描かない方がいい気もするんですが、予想外の展開を孕んだ作品に仕上げてくれるのではないか、という期待もあります。
予算もなく、有名俳優もおらず、ないない尽くしの作品なのにアカデミー賞ノミネート(しかもSFなのに)されているのは、芯がしっかりした作品だからじゃないでしょうか。社会派SF映画と思って敬遠してる方がおられたら、面白い娯楽作品ですから是非ごらんになって見てください、とオススメしておきます。
コメント