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ニンテンドーDS

時の旅人

前回までのあらすじ
鬼嫁へのクリスマスプレゼントのため、どうぶつの森でお金をひたすらためることになり、DSの時計を弄るという禁断の手法についに手をつけてしまうことになった嶽花。
リセットさんという存在を通して「スローライフを自由気ままに過ごし、攻略攻略とかがっつかずにゆったりとプレイしてもいいんじゃないかい?」という開発者のメッセージを届ける懐の深さのこのゲームに対し、「だったらどんな手段を使って金を稼ぎまくってもプレイヤーの自由だよな! 別にリセットさんに怒られるわけじゃないんだし、コレって開発者的にもオッケーって意味だよな! 法律に触れなきゃ世の中何やってもいいんだしな!」と悪態をつきつつの究極の作業プレイが始まった。悪いのは全て社会だ!
会社に行ってる間は自宅にDSを置いて門を開けっぱなしにしておこうかと思ってた矢先だというのに、結果的に会社にDSを持参して昼休みにこっそりと時間旅行を重ね、地道にお金を増やす日々。RPGの戦闘ですら嫌がる嶽花、極限的な単調作業にその精神は耐えられるのだろうか?

周りを見渡し、思う。
「この世は荒野だ! 唯一野望を実行に移す者のみがこの荒野を制することが出来るのだ!!」
そう、この世は荒野。ぐるぐる村は荒野と化した。俺の中の野望を実行に移した結果として、荒野と化した。
荒野と化したぐるぐる村
金を稼ぐためにDS本体の時計を弄り、100年の時を超えては戻り、超えては戻り。それを繰り返すうち、住民は出会ったと思った数分後には次々と去っていく。どんなに話しかけても、仲良くなろうとしても、数分後には永遠に会えなくなってしまう。俺と彼らの時間の流れ方は違うのだ。何をしても無駄だと分かっていると、最初から交流を持とうという気さえしなくなってくる。世は無常だ。
そうこうしている最中に、Wi-Fi 通信でこの村を訪れた方が手紙をくれた。
「雑草だらけで荒廃した雰囲気と、嶽花さんのガスマスクの風貌を見ていると、なんとなく『砂ぼうず』みたいだと思いました」
ジェイソン嬢との思い出の一枚
そう、この村は荒廃している。地面は雑草だらけで、綺麗な花は咲かず、植物はどれもこれも茶色く翳った色合いだ。その代わり、奇妙な形をしてひどいにおいを放つ、花と呼ぶには異質な巨大な存在が鎮座するようになった。
我が友とも言える、ラフレシアと共に
写真に写っているゴミのような点は、画像の汚れではない。奴等は羽音をたて、すばやく動き回る。苦労して捕まえて博物館に寄付したら、かなり嫌がられた。このゴミのような花を処分すれば奴等の存在を消せるかと思ったが、この花は不死身のようだ。スコップを使っても掘れないし、斧だけでなくヤケになって釣竿まで使ったがビクともしない。次回作には火炎放射器も欲しいところだ。
生命の気配が見えてこないこの村だが、それでも果樹は実をみのらせる。ただし、決して収穫されない実を。最初見た時はこの目を疑った。木を揺らし、実が落ち、地面に触れようとしたその瞬間、その存在が消えてしまうのだ。
最初は時間旅行のし過ぎで精神が破綻をきたしたのかと疑ったが、見間違いなどではなかった。俺の精神は嘘をつくかもしれないが、精密機器は嘘をつけない。くわしくは動画を見ていただこう。

そう、雑草が生えているせいで果物がどこにも落ちることが出来ず、次元の狭間に吸い込まれてしまうのだ。ニュートリノ。そんな言葉が心の隅をよぎった。
果物の収穫もままならないまま、傷心した状態で役場にいくと、こんな投書が入っていた。
「もぉ、サイアク! 何なのよ、この村は……あれもダメだし、これもダメ! とにかく目につく物の全てが気に入らないワ!」
雑草のことを言っているのは間違いないだろう。雑草が生えすぎでDSの処理落ちまで起こるような有様だから、そう罵られても仕方あるまい。だがなんと言われようとも、まだまだ妻の要求する金額には届かない。だから俺は黙々と時を巡る。それしか方法は無いのだから。
DSの電源を切り、
電源をつけ、
時計を2000年にし、
電源を切り、
電源をつけ、
森を起動し、
すぐスタートを押してセーブし、
電源を切り、
電源をつけ、
時計を2099年にし、
電源を切り、
DSの電源を
こうしていると、自分が何をしているのかすら分からなくなる。ゲシュタルト崩壊、というやつだ。あまりの単調さに耐え切れず、俺の中の何かが崩壊しつつあるのだろう。だが同じ作業を続けるのであっても、気持ちを切り替えればうまくいくかもしれない、と思いついた。これはタイムアタックなのだ、そう、時間を計り、どれだけ作業を効率化できたかを知り、自己満足度を高める、そういう風にこの一連の行動を捉えてみてはどうだろうか。
数分後。良い案だと思ったのだが「なぜマリオカートのタイムアタックはあれだけ面白いのに、この作業のタイムアタックは楽しくないのだろうか」と疑問に思うに至った。答えはまだ無い。いや、実際は答えは目の前に見えているのかもしれないが、無意識下でそれを直視するのを拒絶しているのかもしれない。
そうこうしているうち、ふらふらと意味も無く夜の村をさ迷っていた。こういうことをしている時間があるのなら少しでも金をためないと、と分かってはいた。分かってはいたのだが、なぜだかそうせずにはいられなかった。意味も無く、夜、歩く。その何気ないゆとりこそ、そういうことが出来る空間であるということこそ、この作品が本来もっているポテンシャルではないのだろうか。
しかし今の俺は反逆の使途。開発者の想いを裏切り、目的のために手段を選ばず、村も心も荒廃させてしまった、ただの侘しい大人だ。そう思って自分の中に生じつつある何かを認めないようにつとめていたが、夜の森にて見かけない住人と出会った。どうせ数分後には二度とお目にかかれなくなる。そう思って今まではどんな住人にも話しかけていなかったのだが、この時はなぜだか気軽に声をかけていた。コアラの住人というのが珍しく思えたからかもしれない。
愛すべき住人
「わたし、ぐるぐる村が大好き! とっても!」
特に何の期待もせずに話しかけたからなのか、心底驚いた。この雑草だらけの荒野を見て、こんなことを言ってくれるとは。俺自身ですら嫌に思えてきているこの村を、こんなに愛する存在がいたとは。
しかし、もしかするとただの物好きかもしれない。部屋が片付いてた方が落ち着くと言う人種もいれば、部屋が散らかっていた方が落ち着くという人種もいる。更にこの住人に対して思った。ひょっとしたら雑草マニアなのではなかろうか、と。世の中には色々な嗜好を持った人々が居る。お互いに共存できたり、できなかったりしつつ、それぞれが存在しつつ成り立っている。
そういったこの世の摂理を思い出しつつ、俺はまた再び時の旅を繰り返すことにした。例のごとくこの住民とも二度と会うことは無くなったが、その言葉だけは俺の中に妙に根付き、今も残っている。その言葉が今の単調作業を支えている。
もし貴方がぐるぐる村に来た時は、思うが侭に好きに過ごすといい。カブさえ持ってこなければ、特に貴方の身に危険はないだろう。果物は幾ら収穫しようとも、翌日には何故だかなっているだろう。雑草は幾ら抜いても、翌日にはその生命感を誇示するかのようにビッシリと生えそろっているだろう。むしってもむしっても、永遠に尽きることの無い雑草達が貴方を待ち構えているのだ。だから、好きに過ごすといい。
「ダーリン、何サイトの更新とかしてんの。んな暇があったら早くお金稼いでよねー。もうクリスマス過ぎてんだから」
「ごめんね、まみちゅわーん、お年玉ってことで許してちょ!」
「じゃあ200万ベルじゃなくて400万ベルちょうだい」
「えーっ!!」
「クリスマスで200万、お年玉で200万、計算あってるでしょ?」
「でもさー、せっかくの休みなんだからさー、もう少しゆっくりしたい、かなー、なんてちょっと思っちゃったり……とか……ね?」
「あのさー、デジカメとか買って現実世界じゃお金がないんだから、せめてぶつ森でくらい私を裕福にさせてくれてもいいんじゃないの?!」
「わかったよ……」
そして俺はまた再び時の旅を繰り返す。
皆さん、よいお年を。
せめて皆さんだけは、よいお年を。

コメント

  1. にわねえ より:

    森リングから飛んできました。はじめまして。
    利息で金儲けうまくいきましたか(;;)
    大変泣ける話でした。
    私は家族2名の村ん為、現在は夏に時間設定してます。
    一晩で10万ベル稼ぎ出してます。
    もったいないので wi-fiで密猟者や、出稼ぎの方も歓迎しております

  2. 嶽花 より:

    はじめまして。
    あらためてどうぶつの森をプレイされてる方々が多いな、と感じる
    今日この頃でございます。
    利息のお金儲けは、DSの日づけと森の日づけさえあってれば、
    年単位でずらしても問題ないのでうまくいったといえばいえます。
    雑草のことを気にしないのであれば。
    昔は自分も果物各種栽培でこまめにお金を儲けてたのですが
    一度楽することを覚えると人間ダメですね。
    生活レベルを落とせなくなったキャバ嬢はこんな心境なのでしょうか
    (多分違う)

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