短編

セッション

「これが問題のCDか?」

「ええ、4枚のうちの1枚ですよ」

「どんな音がするんだ?」

「これはドラムのパートだから、普通にドラム叩いてるだけ……らしいです」

「聴いてみたいんだが」

「警部、何言ってるんですかっ! これだけ被害者が出たってのにっ?」

「でもなぁ、4枚一度に再生しないと効果ないんだろ? じゃあこの1枚だけ聴いても……」

「何言ってるんですかっ! 万が一があったらどうするんですか?!」

「バンドメンバー4人がそれぞれ録音したパートを、一度に再生させた曲を聴いたら、自殺した人間がここ一ヶ月で5人も出てる……ってニュースには流せないよなぁ」

「自分でもこんなオカルトじみた事を信じてるわけじゃないですけど……」

「じゃあいいじゃねぇか」

「毎度のことですが、警部はなんで危険な事に首を突っ込もうとするんです?!」

「まぁ聴きゃあ、何か手がかりが掴めるって……おおっと」

「あー、割れちゃいましたね……」

「始末書もんかぁ?」

「始末書で済めばまだいいですけど、呪われたりしたらどうするんですかっ?!」

「んなこたねえって」

それから数ヵ月後。

「警部、あれから体の調子は悪くなってないですよね?」

「ああ、いつも通りだな」

「呪いにかかって自殺しやしないかと、気が気でなかったってのに……」

「そんな心配してる暇があったら、事件の一つでも解決しようや」

「そうですねー」

「ところで、お前の方こそ大丈夫か?」

「なにがです?」

「その指の絆創膏、料理でも始めたんか?」

「いやー、最近音楽にハマっててですね」

「包丁でできたCDでも買ってきてるんか?」

「ああ、聴くほうじゃなくて、演奏する方ですよ。なんか頭の中に浮かぶフレーズがあって、なんか演奏したくなってきてたまんないんですよねー、最近」

まさか演奏してるのはドラムじゃないだろうな。

老警部はそう軽口を叩こうとした。

質問しなければ大丈夫、という保証もない。

質問すれば大丈夫ではない、という保証もない。

ただ、質問しさえしなければ、これ以上は何も確定しないだろうから。

そう思うと、何も口に出来なかった。