短編

花火の効用

子供のころにやった一番残酷なことは何か。

子供のころはわんぱくだった知人が、神妙な顔つきで話し始めた。

「小さい時でありがちなのは、蛙のお尻に爆竹を突っ込むってヤツだろうが、俺の場合は少しだけ違ったんだ」

「爆竹じゃなくて、他のものを使ったとか?」

「いや、違うのは爆竹じゃなくて、蛙の方なんだ」

「まさか、犯罪っぽい代物じゃないよな? 子供ってことはアブノーマルなプレイとかするわけないし……」

余談だが、知人は知る人ぞ知るSM愛好家だ。子供の頃だけではなく、大人になってもわんぱくらしい。

「いやいや、俺だって子供の頃はそんな事しないって。ヒントは夏の生き物」

「蛙だって夏の生き物じゃないか。もう少しヒントはないか?」

「そうだなぁ、これ言ったら正解すれすれなんだが、うるさい生き物かな」

「蛙だってうるさい生き物じゃないか。もう少しヒントはないか?」

「わざと言ってないか? 第三ヒントは、空を飛ぶ生き物」

「ああ、蝉か」

「そう、蝉のお尻に爆竹を突っ込んだんだ」

「それだけじゃ蛙と変わらないだろう」

「蛙と違って、蝉は空を飛ぶんだ……」

知人は過去の風景を思い出したのか、陰鬱な表情になって話し始めた。

「蝉がな、爆竹をつけたまま元気良く空を飛ぶんだ。俺がそれを見上げてたら、爆竹が当然爆発したよ。太陽を逆光にして、はじけ飛んだ蝉の残骸が顔にばらばら落ちてきた時、俺はこの世にはやってはいけない事が確かにあるんだ、と思い知らされたんだ」

「こういっちゃなんだが、情操教育にいいかもしれない」

「確かに効果はあると思う。まぁPTAに反対されるだろうけどな」

将来の犯罪を抑止するために、蝉の花火を打ち上げる。そういうのもありかもしれない。

じゃあ、世界平和のために60億以上の蝉と花火、それだけあれば理想郷は訪れるだろうか。

いや、無理だ。蝉ではなく人間の花火が上がるような国だって世界には沢山あるのだ。所詮は平和ボケした国の人間の戯言だ。

それに、蝉の花火で犯罪抑止になればいいが、逆に眠っていた衝動が覚醒しないとも限らないだろう。

現に今、目の前に度がすぎてしまっているSM愛好家が居るではないか。

子供のころ大人しくなったのではなく、違う方向に嗜虐性を見出し、巧みに隠蔽するようになった人間が、目の前に居るではないか。

「ほら、約束の品だ」

私は知人にブランデーを渡した。

琥珀色の液体の底に、よく見ると人の小指が沈んでいる小瓶を。

知人にとっては、爆発でなく切断するのならやってもいい事なんだろう。

そういう道徳心も分からなくはない。