短編

契約終了

「携帯が変なの。なんかこわいよ……」

そういう電話が彼女からかかってきた。

なんで怖い携帯から電話できるんだろうか、と不思議に思いつつも深刻な口調が気になって、深夜だったが私はすぐに彼女の元に駆けつけた。

「で、なにがこわいの?」

「最近、携帯を変えたんだけど、携帯が変なの」

「どう変なの?」

見る限り、真新しくて普通の携帯電話にしか見えない。

「あ、そっちじゃなくて、契約が終わった昔の携帯の方」

彼女が指差す方を見ると、少し古くなったピンク色の携帯が目に付いた。

手にとって見たが、古いとはいえ特に変わっているようには見えない。

「もう契約してないから鳴らない筈なのに、電話がかかってくるの」

「そんなバカな」

「わたしもそう思ったんだけど、電話番号はこっちの新しいのが有効になってるから、絶対にかかってくるわけがないって言われちゃって……」

気になって私は古い携帯の履歴を見た。しかし随分前の履歴しか残っていない。

「最後にかかってきたのはいつ?」

「今朝7時くらいかな」

まさかと思って見直したが、履歴には今朝の日付など残っていない。

「じゃあ、その前にはいつかかってきた?」

「その前の日の、朝7時くらいかな」

え。それって、まさか。

「もしかして、毎朝7時くらいに電話がかかってくるとか?」

「え、なんで分かるの?」

私は無言で古い携帯のアラーム機能を確かめた。毎朝7時にセットされている。

「ひょっとしてさ、饅頭とか怖かったりする?」

「え、なんでお饅頭の話になるの? わたしはお饅頭より羊羹のほうが好きだけど」

私は怖い。

彼女の鈍感さが。