短編

カウント

2602

306

10204

ある日、他人の頭の上に数字が見えるようになった。

天使の輪のごとく、人の頭の上にくっきりと浮かんで見える。

人によって様々な数が浮かんでいるが、どれもこれも整数ばかりで、もっと言えば自然数ばかりだ。つまり、ゼロは見かけたことがない。

ゲームや漫画などではこういう場面も珍しくないかもしれない。

ファイナルファンタジーしかり、デスノートしかり、何らかの数字が人の頭の上に載ってるシーンは誰もが何らかの形で目にしているだろう。

しかし実際に現実世界で目にすると、これは実に間抜けだ。

それにしても、だ。この数字は何なのだろうか。

体力?

寿命?

色々考えてみたが、どうやって推論を確かめればいいのか見当もつかない。

とりあえず私は人通りの多い街中の喫茶店に入り、外を眺めていた。しかし特に数字も変化することもなく外を見ているのに飽きてきた頃、注文していたコーヒーが届いた。

そして自然と視線が店内に向いたわけだが、そのとき気付いた。

目の前の女子高生たちの頭上の数字が確かに今、一つ増えた。一つ増えたと思ったら、また他の女の子の数も増えた。それはもう、連鎖的に数が増えてゆく。

なるほど、話すことで数値が増えるのだろう。

ただし、話すからと言って必ずしも数値が増えるわけでもなさそうだ。

女子高生グループの中でも、頻繁に数字が増える子もいれば、しゃべってるにも関わらず全く数値の変動が無い子もいる。変動が無い子に限って、数値が低めだ。これはどういうことだろうか。

結局そこから推論は進まなかった。そうこうしているうちに、いつの間にか人の頭の上から数字が消えていた。

ほっとしたような、がっかりしたような、複雑な心境だったが、これでもう数字のことを気にしなくて済むかと思うと、肩の荷が下りたような気がする。両手を伸ばし、思いっきり背伸びをしてみた。

そして目が覚めた。

夢の中で背伸びをしたとき、実際にベッドに手をぶつけてしまったようだ。少し手が痛む。

寝覚めが悪いので洗面所で顔でも洗おうかと思ったとき、鏡の向こうに見えるものがあった。

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数字だ。あのコミカルにも思える数字が私の頭の上に浮かんでいる。

そしてその瞬間、私がこの数字に理由のわからない嫌悪感を抱いていることを実感した。

さっきの夢の中みたいに、数字が消えている世界は実に安心できていたというのに。

いや、むしろこれが夢なのかもしれない。

人の頭の上に数字が見えるなんて現実にありやしない。

少しずきずきする手をさすりながら、そう思う。

一度目を閉じて、考えてみる。これは間違いだ。私の頭の上に数字なんて見えていやしない。

そして目を開けて、もう一度鏡を見る。

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確かにカウントが増えていた。

私は今、一言も言葉を発していないというのに、数値が一つ増えている。

これはどうしたことなのだろうか。

呆然として突っ立っていると、妻が起きてこちらにやってきた。

「どうしたの、顔が真っ青じゃない。今日は会社休んだら?」

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ああ。妻の頭上にも数値が浮かんでいる。

震えているのがバレてしまいそうで、振り向かずにそのまま気をつけて声を出す。

「このくらいで休むわけにはいかないだろ。風邪薬でも飲んでればすぐに治るさ」

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私のカウントがまた一つ増えた。

これは一体。

ふと思いつき、私は妻に質問してみた。

「私を愛してるかい?」

「朝から何を言ってるの。愛してるわ、もちろん」

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確かに、今、妻の数値が増えた。