知人のS氏から聞いた話である。
それは今年の八月の上旬、いつもと同じ様に朝食を食べている時だったそうだ。
奥様が新聞を取りに玄関に行った直後、叫び声が聞こえたらしい。
「パパ……怖い、来てっ……!」
虫か何かいるんだろうか、と軽く考え玄関に出た。
彼女は玄関のドアを開けて床を指さしていた。その先には虫などはいなかった。
ただ、靴が置いてあるだけだった。
いかにも家の中に入った際に脱ぎました、とばかりに爪先を家屋側に綺麗に揃えて置いてある。見た瞬間はその意味に気づかなかったが、少しして違和感に気づいた。
この靴は、自分の家の物ではない。
そう気づいた瞬間、鳥肌がたっていた。
誰が、何のために……?!
あとから思えば警察に届けて証拠品として提出すべきだったが、考える前にその靴を思いきって掴みあげ、ゴミ捨て場に放り投げていた。
それ以来、特に不審な靴は見当たらないとのことらしい。