「意外にしっかり場所がわかるものなんだな」
「このGPSチップって、まだ極秘テスト中みたいですが、なかなかの精度みたいですね」
「しかしなぁ……本当に売りに出せるのか、こんなもん」
「でも誘拐が気になるお金持ちには売れるんじゃないですか?」
「家出娘ご本人には内緒で埋め込んで、な」
「お父さんの心配性、ここに極まれり、ってことですかね」
「世も末じゃねえか。子供の生活を全部見張るってのはなぁ……」
「そう言えば高校生のクラスメートのお嬢さんなんですが、家にワイン蔵を持ってるような家庭だったんですけどね、外出のたびに探偵につけられてたとか言ってましたよ」
「なんだそりゃ? 金の使いどころを間違えてるんじゃないか?」
「それだけ使う余裕があるというのもうらやま……あ、見つかりました。あの一軒家です」
「ここの住所は分かるか?」
「ええ、住人の住所だけでなく、親戚知人の住所も……ほら、出ました」
「じゃあ、適当なのを書いとけ」
「預かり伝票はこれでいいとして……じゃあ、僕が住人を呼び出しますので、ポインタの監視をお願いします」
「ああ? 俺にはこんな機械なんてわからねえよ」
「大丈夫ですって、この光ってる点が変なところに行ったりしないか、見張ってるだけですから。ほら、今少し動いたでしょ? 冷蔵庫に何か取りに行って、戻ってきた、って感じじゃないですかね」
「トイレかもしれないじゃないか?」
「トイレにしては早いですって。まぁとにかく見てればいいんで、頼みますよ、警部」
「ううん……まあ、見てればいいんだな、見てれば」
そして若い男が「宅配便でーす」と言いながら何度かチャイムを押すと、ドアがゆっくりと開いて中から陰気な男が出てきた。
「宅配便です」
「ん……荷物? 誰から?」
「えーと、こちらの方からのようですね」
「あー、なるほど」
「ハンコはございますか?」
「あー、部屋の中だから、ちょっと待ってて」
そしてドアが一度しまった瞬間、隠れていた警部が駆け寄ってきた。
「警部、娘さんは部屋の奥に居るんですかね。ポインタの反応はどうでした?」
「いや、なんかおかしいぞ。ほら見ろ、今も点が動いてるぞ」
黒光りするPDAの画面の中、ポインタは玄関の位置から離れていき、しばらく部屋の中と思われる場所でとどまっていた。そしてまた玄関の位置に戻ってこようとしている。
「何もおかしくないじゃないですか。娘さんがハンコを取りに行ってきたんでしょう」
「いや、違うんだ、さっき玄関に……」
言いかけた矢先、ポインタが玄関に戻ってきたので警部は再び隠れた。
ポインタが玄関に近づいてきた瞬間、警部がちらりとドアを見やると、やはり同じ男が玄関に立っている。
そう、最初にドアが開いたときも彼がドアに立ち、その時ポインタもドアの位置にあった。
今一度、探している女性の写真を取り出し、ドアの男と比べる。
どう見ても同一人物には見えない。背丈も体型も違いすぎて、とても変装にも思えない。
となると、これは、まさか……
「何が入ってるの、これ……ああ、調味料ね。ちょうど良かった、食事中だってのに切らしてたからさ。母さんは気がきくなぁ」